国内優先の図解

最終更新日:2019.9.29


国優(こくゆう)

「あの出願に、この発明も書いておきたかったなぁ」という、発明者の想いを汲む制度として「国内優先」があります。国内優先は「国優(こくゆう)」と言われたりします。

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背景

ある発明について出願Aをしたけれども、数ヵ月もしないうちに改良発明や派生発明を思いつくことがあると思います。こうした場合に、発明者の方は…

「出願Aに書いておけばよかったなぁ」

と思うかもしれません。

このような発明者の想いを汲む制度として国内優先出願があります。国内優先出願をすることで、ⅰ.先に特許出願した発明の内容、ⅱ.改良派生発明の内容を「まとめて権利化」できます。

本記事では、国内優先について分かりやすく、図解を用いて説明します。なお、「コクナイユウセンシュツガン」はフレーズが長いので、「国優(こくゆう)」出願と略して言われたりします。これに倣って本記事では「国優」と呼称します。

なお、「まとめて権利化できる」といっても、先に出願したものの書類に書き足すことができるわけではありません。むしろ、「出願しなおし」になります。

 

国優出願とは?

国優出願を、比較的厳格に定義すると、

請求項に記載された発明のうち、基礎出願である旨を願書で表明した出願Aの書類にも記載されていた発明については、出願Aの時分に出願されたものとして、新規性などの審査がなされる出願

というように説明できます…が、少し分かりにくいので順を追って説明します。

まず、「国優出願」は、国内優先という特別な修飾語が付いていても、特許出願の1つであることに変わりはありません。通常の出願と同じように、14,000円の出願費用もかかります。上述したように、先にした出願Aとは別に改めて行う「出願しなおし」だからです。

改めて「出願しなおし」をする国優出願には、

  • 先にした出願Aにおいて記載した基本発明

に加えて、

  • 追加の研究開発によって生まれた改良発明/派生発明

を記載します。実務上、国優出願の書類作成においては、出願Aの書類原稿のドキュメントファイルに改良発明/派生発明の内容を追記します。

ただ、このまま出願しただけでは通常の出願と同じであって国優出願ではないので、願書に「これは国優出願です」という表明をします。具体的には、願書に「先の出願の表示」として、出願Aの出願番号などを記載します。これで、外形上、普通の出願ではなく国優出願として扱われます。

 

ここまでの説明だけだと、

「ドキュメントに追記して再出願しただけで、出願日も遅くなっているじゃないか」

という突っ込みを受けるかもしれません…が、願書に「これは国優出願である」という表明をして、基礎となる出願Aを表示することによって、審査において基本発明だけは特別に扱われるという性質を国優出願は有します。具体的には審査において、次のように扱われます。

  1. 請求項に記載した発明(権利化したい発明)のうち、出願Aの明細書に最初から書かれていた基本発明については、出願Aの出願時を基準に新規性などが審査される
  2. 改良/派生発明については、国優出願の現実の出願時を基準に新規性などが審査される

そして、これを1センテンスでまとめると、本項目の冒頭に記載したような定義になるのです。

 

国優出願の存在意義

ところで、国優出願の存在意義は何か。それは、もしも国優出願がなかったら、どうなるかを考えれば分かります(つまり、国優出願の導入前はどうだったのか…)。

例えば、もし、出願Aとは別に、改良発明/派生発明などについて別出願Bをすると、基本発明については出願Aで権利化し、改良発明については出願Bで権利化することになります。

基本発明という文言と改良発明という文言は、基本/改良という修飾語が違うから全くの別物だと「思う」のは簡単です。しかし、実際に請求項の記載において、どこからどこまでが基本発明で、どこからどこまでが改良発明であるのかを明確に線引きするのは至難の業です。

もし線引きを誤って一部が重複すれば、先後願という要件からして、出願Bの権利化が難しくなります。一方、線引きが甘くなってしまうと、出願Aでも権利化できず、出願Bでも権利化できていない「漏れ」が生じてしまいます。

でも、国優出願をすれば、問題は簡単に解決できます。

国優出願は、基本発明も改良発明も1つの出願として「まとめて権利化」できるわけですから、別々の出願として線引きする必要がなく「漏れ」を防ぐことができます。すなわち、国優出願によれば、基礎~改良におよぶ発明のコンセプトを漏れなく権利化することができます。これが、国優出願の存在意義であり、「まとめて権利化」できることの本質的な利益です。

なお、基本発明と改良発明を別々に権利化しようとすると、出願費用に比べて物凄く高額な出願審査請求の費用を2倍払うことになりますので、金銭的にも、国優出願にはメリットがあると言えます。さらに、権利を管理するという点でも、国優出願で1件にまとめてしまえば簡単になります。

 

手続は簡単。でも、重要な注意点がある

上記のように便利且つ手続も簡単な国優出願ですが、1点、大きな注意点があります。それは、

国優出願は出願Aの出願日から原則12月以内にしなければならない

ということです。これだけは、注意しなければなりません。

 

図説

下図は、出願A(図中の基礎出願)と国優出願の関係を時間軸上で示すものです。下記図を用いて、国優出願の時間軸上での手続と効果について整理します。

(クリックして拡大)

例えば、出願Aを1月10日にしたとします。出願Aの明細書には発明イと発明ロが記載されています。

その後、春頃に発明者は、発明イ・ロの改良発明である発明ハを思いつきました。出願Aからまだ1年経っていないので、国優出願できます。

そして、5月10日に国優出願をして、その特許請求の範囲に発明イ・ロ・ハを記載しました。

その後、出願審査請求をすると、出願Aにも記載があった発明イ・ロについては、出願Aの出願時(1月10日の出願時)に出願されたものとして審査されます。一方、追加発明ハについては、5月10日に出願したものとして審査されます。

 

基礎出願は原則、引退

ところで、国優出願をすると出願Aは、原則として取下げとなります(御役御免)。上記例で言えば、1月10日に発明イ及び発明ロを我先にと優先的に届け出た出願Aの意志は、国優出願に引き継がれ、出願Aは特許庁の手続から引退することになります。但し、出願Aが既に特許権になっているなどの場合には、引退=取下げにはなりません。 

 

まとめ

国優出願の簡単な説明は以上のとおりですが、実は、本制度の規定は結構細かいです。したがって、実際、国優制度を活用して出願戦術を練るときには、法律の細かい規定の熟知が必要であること、ご留意下さい。なお、いまや当たり前の国優出願ですが、導入されたのは昭和60年です(幼いころに「東京特許許可局」と早口言葉で遊んでいたころには、まだ無かったのだな…)。


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