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Q.007 進歩性判断における「動機」の意味が分かりません。発明を知財専門家に…

進歩性判断における「動機」の意味が分かりません。発明を知財専門家に提案したのですが、進歩性がNGと言われました。私の発明と、ある従来技術(以下、技術1)との間に差異はあるけれども、その部分は、他の従来技術(以下、技術2)に記載されていて、技術1と技術2を組み合わせる動機があるから、ということでした。どうしたら、動機があると言われないのでしょうか?




弁理士からの回答

下記2点について説明いたします。

  1. 進歩性判断における「動機」の意味
  2. どうしたら動機があると言われないか

1.動機の意味

進歩性議論における「動機」というのは、「ある先行技術と、それとは別の先行技術を組み合わせる直接的な原因」を意味します。審査基準では、具体的に、

2つの従来技術の技術分野が関連していて、且つ、課題・機能が同じ(または、近い)であれば、2つの従来技術を組み合わせる原因になる

というように動機を説明しています。今回のケースでは、文献の記載から、技術1と技術2について「技術分野が関連し、且つ、機能・課題が同じ(似ている)」と認められたのだと思います。

2.動機がある場合の反論の仕方

技術分野が同じでも、課題が違う/機能が違うのであれば、「動機」はないと反論できます。技術分野が同じという理由だけで、文献を組み合わせることは一般的には許されないからです。

また、「動機」があると思われる場合でも、2つの技術を組み合わせると、元の課題を解決できなくなるときは反駁できます。ただし、反論することに執着して、発明の実施可能性を失うことにならないように、留意が必要です。



回答の詳細な説明

1.動機の意味について

進歩性の議論における「動機」というのは、専門用語を使わずに説明すると、

ある先行技術と、それとは別の先行技術を組み合わせる直接的な原因

と言えます。審査基準では、具体的に、

2つの従来技術の技術分野が関連していて、且つ、課題・機能が同じ(または、近い)であれば、2つの従来技術を組み合わせる原因になる

というように「動機」を説明しています。

例えば、ここに、技術分野や製品分野が同じである、2つの先行技術があったとします。この2つの技術文献を観察したとき、さらに、機能や課題が同じ・近い場合には、それらを見た技術者なら、「その2つの技術を組み合わせた、どうなるか?」を想像しても、おかしくはありません。

具体例として、従来の通信速度の数倍をほこる無線通信技術と、通信速度の遅い携帯端末技術とをみたら、それらを組み合わせたら良いのになぁ、と技術者なら誰だって簡単に思います。

このとき、技術者に、2つの技術を組み合わせてみようと思わせる要因は、

  • 技術分野(ex.無線通信という技術分野)
  • 機能、課題(ex.通信速度)

が同じ、または、似ているという事実です。そして、特許審査基準は、これらの2つの要因などを、技術を組み合わせる直接の原因=動機としているのです。

今回のケースでは、技術1と技術2を組み合わせることができる直接的な原因として、引用文献の記載から、「技術分野が関連し、且つ、機能・課題が同じ(または、近い)」という事実が認められたのだと思います。

そして、そのような事実がある以上は、技術1と技術2を見た技術者なら誰だって、それらを組み合わせてみようと思うはずですから、その発明を創出することに困難性はないと言えます。これを一言で、知財専門家は「動機付けがあるから、進歩性なし」と言います。

2.動機がある、に対する反論

「動機」が認められるためには、技術分野が関連し、且つ、課題・機能も同じ(または、近い)と説明しましたが、「且つ」とあるように、これらは総合的に判断する必要があるとされています(もっというと、組み合わせる示唆の有無も考慮します)。

すなわち、技術分野は同じであっても、課題が違うとか、機能が違うのであれば、動機はないと反論することも可能です。分野が同じだけで組み合わせることは一般的には許されないとされているからです。

また、「動機」が認められると思われる場合であっても、

技術1と技術2のそれぞれの要素を組み合わせると、元の課題を解決できなくなる

という説明ができれば、「動機がある」ことに対して反駁できます。

ただし、あまりに「動機」に反駁することに執着して、発明の実施可能性をなくすようなことにならないように、注意が必要です。

例えば、電気自動車の発明に、潜水機能を付けるという場合、自動車の文献にも、潜水機能の文献にも「動機」は確認できないかもしれません。だから、進歩性はクリアする可能性もあります。

しかし、特許権は、出願人自ら、または第三者が実施して市場に流通してこそ、その効力が発揮されます。つまり、誰も使いたがらない(実施したがらない)突飛なアイデアでは、何とか「動機」への反論を成功させて進歩性が認められても、実施性を損なってしまいます。

洋服を例に比喩的に表現すると、「進歩性(奇抜さ)」と「実施性(着用したいかどうか)」は別軸の論点です。

麻生地のワンピース、麦わら帽子はそれぞれ公知だし、互いに作用しているから珍しさはない。また、それにどんな装飾品を組み合わせて、周知のものを単純に合わせているだけだから珍しさはない。けれども、女性であれば夏に実施したくなるような組み合わせです。

一方で、宇宙服に下駄を履いて、キャップを被るとすると、進歩性はあっても誰も着ません。出願人・特許権者がもったいないからという理由で一度か二度、着用するかもしれませんが、すぐにそんなものは捨てることになると思います(出願・権利放棄)。