グローバル明細書

最終更新日:2019.7.24


優先権主張の効果などを考慮すると、日本特許庁へ出願する段階から「外国出願に通用する」出願書類を作成することが望ましいです。つまり、日本出願様式の項目ごとに「書くべきこと・書くべきではないこと」に留意します。本記事では各留意事項に、どの国を想定する場合に留意すべきかという観点で日本マーク(JP)、米国マーク(US)、欧州マーク(EP)、中国マーク(CN)を付しています。ただし、技術分野は電気・機械・制御系に向けであり、化学分野などには最適化していません。


【書類名】要約書

  1. 要約書
  2. 要約
  3. 課題
  4. 解決手段
  5. 選択図

【書類名】明細書

【発明の名称】

JP 【発明の名称】は特許請求の範囲の独立請求項の発明の名称を記載します。なお、記載は全角のみが認められています。

 

【技術分野】

【00**】

 本発明は、〇〇装置、〇〇方法、および〇〇プログラムに関する。

 

【背景技術】

【00**】

 〇〇の開発が盛んである。例えば***(例えば、特許文献1参照)。

US 米国実務において「Applicant Admitted Prior Art」(AAPA)という概念があるため、米国出願時/移行時の修正の手間を省くためには、国内段階から【背景技術】には真に公知である事柄のみを記載し、真に公知ではないものは記載しないように留意します。具体的には、従来技術は【先行技術文献】として挙げる公開公報の請求項1又は要約書の内容に基づくものにします。

 

【先行技術文献】 

【特許文献】

【00**】

 【特許文献1】特開****-******号公報

【非特許文献】

【00**】

 【非特許文献1】〇〇著、「文献名」(出版社名)、発行年月日、該当ページ

US 背景技術を説明するための先行技術の調査を行った結果、適切な公開公報又は英語の非特許文献が発見されたならば、さらに積極的に日本語の非特許文献を探し出す必要はありません。不必要に探し出した日本語の非特許文献を当該欄に記載すると、米国での手続にて、先行文献の情報を情報開示陳述書(IDS)によって提出する際、英文翻訳の金銭的・時間的コストが余計に生じるからです。ただし、開示すべき重要な情報として適切な文献が日本語の非特許文献しかない場合には、USPTOへ誠実・善良な態度を示すために日本語の非特許文献を記載しなければなりません。

 

【発明の概要】 

 

【発明が解決しようとする課題 】 

【00**】

 しかしながら、上述した文献1の技術は***の場合に***が困難である。

【00**】

 本発明の目的は***の場合に***の向上に寄与する〇〇の提供である。

JP 技術的課題を記載する欄であって、ビジネス上の課題は記載しません。

JP 自社またはグループ企業が以前に出願した別の出願(特に、他の発明者が発明したもの)の技術的課題を、この欄に不適当に無責任な記載をすることは避けるべきです。なぜなら、当該別の出願の技術が自社製品に実装されて市場において不具合・問題が生じた場合、本願の【発明が解決しようとする課題】の欄に当該別の出願の技術的課題を不適当に指摘したことが、PL法の適否についての訴訟審理を複雑にしかねないからです。具体的には、PL法の適否について免責事由が認められるか否か等の真実の解明は、訴訟の場において誠実に行われるべきものであって、特許出願書類の中で行われるべきものではないからです。

US 米国出願時/移行時の修正の手間を省くためには、AAPAを考慮して国内出願の段階から当該欄には真に公知である事柄のみを記載し、真に公知ではないものは記載しないように留意します(理由は【背景技術】の欄と同様)。具体的には、公知技術に基づいて「発明者が発見した課題」は真に公知な事項ではなく、発明創出の一過程だからです。発見された課題(従来技術の解説)は実施の形態に記載します。

CN 中国の実務において、独立クレームは、明細書に記載された技術的課題を解決するために必須である技術的特徴を記載しなければならないため(中国特許法実施細則20条2項)、中国出願時/移行時の修正の手間を省くためには、独立クレームの構成要素のみによって解決できる課題を記載することが適切です(必要以上に解決すべき課題の範囲を広げることは適当ではありません)。

 

【課題を解決するための手段】

【00**】

 本発明の一態様に係る〇〇装置は***を備える構成を採る。 

【00**】

 本発明の一態様に係る〇〇方法は***を含む。 

【00**】

 本発明の一態様に係るプログラムは***をコンピュータに実行させる。

JP 「***」は請求項のコピーを記載します(「前記」の記載は削除不要)。

US 当該欄は米国出願の明細書[summary](【発明の概要】に対応)に含まれる内容であり、summaryの記載は権利範囲の限定解釈に用いられうるため、日本出願時から当該欄には独立クレームのみを記載するのが適当です。

 

【発明の効果】

【00**】

 本発明によれば***の場合に***の向上に寄与できる。 

US 当該欄は米国出願の[summary]に含まれる内容であるため、上述のとおり、当該欄には独立クレームから容易に想到できる効果のみを記載します。なお、従属クレームの技術的効果は実施の形態に記載することが適当です。

 

【図面の簡単な説明】 

【00**】

【図*】本発明の実施の形態1に係る〇〇システムおよび〇〇装置の機能的な構成の一例を示すブロック図

【図*】本発明の実施の形態1に係る〇〇装置の動作の流れの一例を示すフロー図

【図*】本発明の変形例を説明する図

【図*】各部の機能をプログラムにより実現するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図

JP 当該欄の説明において、参照符号の記載は不要です。

JP ソフトウェア関連発明において請求項の記載が機能的表現であるとき、その機能を実現するハードウェア・ソフトウェアがどのように構成されているかを明確に記載することで実施可能要件が満たされるため、機能ブロック図の他、詳細なフローチャートを記載する必要があります。なお、請求項記載の発明の構成要素を並べただけのフローチャートは詳細なフローチャートとは認められません。

US ソフトウェア関連発明の場合、MPFに対応する「構造」はアルゴリズム(処理手順)なので、処理手順を説明するためのフローチャートの記載は必須です。

 

【発明を実施するための形態】

【00**】

 (本発明 に係る一態様を発明するに至った経緯)

【00**】

 *** 。以上の考察により、本発明者は、以下の発明の各態様を想到するに至った。

US 米国実務のAAPAを考慮して【発明が解決しようとする課題】に記載することを避けた出願人が見出した課題(従来技術の解説)は、実施の形態の冒頭に記載するのが適当です。

 

【00**】

 (実施の形態1)

 図*を用いて本実施の形態に係る〇〇システム1および〇〇装置100の構成について説明する。〇〇システム1は、***20、***30、***100を有する  。

JP 「〇〇システムは***を有する」のようにオープン表現を用います。「~から構成される」はクローズド表現ですので使用はNGです。

JP 登録商標を明細書に記載する場合、それが登録商標である旨を明示するために登録商標の初出時に括弧書で(登録商標)と記載します(特施規24条)。

JP 数式を記載するときは、数式の前に「数1」「数2」のように付します。なお、l(小文字のエル)、1(数字のイチ)、i(小文字のアイ)は混同を避けるために使用しない方がベターです。

JP 明確性の担保、及び誤訳回避のため「1センテンスに1趣旨」、3行~5行程度の記載に留めることが適切であるとされています。

JP 数値限定発明を記載する場合、①最も望ましい数値範囲(米国112条a[ベストモード]要件に対応する具体例)、②望ましい範囲、③許容できる範囲を段階的に記載して、拒絶対応の準備をしておくのが適当です。なお、意識的除外とされないように、「〇〇~〇〇の範囲ではさらに有利な効果を有する」とポジティブに記載します

JP 出願時クレーム(上位概念)と、具体的な機能・作用(下位概念)との間に位置する中位概念に相当する記載をしておきます。補正が厳格な欧州/中国の実務にも対応できます。

CN 中国の補正実務に対応するため、明細書に含まれるすべての「発明」について、特許請求の範囲に記載するに適した文言で表現しておくことが有効です。中国実務では、サポート要件を規定する中国専利法33条に関連する審査指南で「…元の明細書及び請求項に記載した範囲は…元の明細書及び請求項の文字にて記載された内容…明細書の図面に基づき、直接的に、且つ、一義的に確定できる内容を含む…」とされていますが、「直接的、且つ、一義的に確定できる」の要件適用が厳しく、実質的には、補正は明細書及び請求項の文言に基づいて行うものだからです。

US 翻訳を考慮して、下記列挙の事項を意識した文章を心掛けるのが適当です。

  • 名詞表現よりも、動詞表現の方がベター  
  • 主語と述語の関係を明確にします。例えば、「AとBは、aとbを行う」ではなく、「Aはaを行い、Bはbを行う」のように主語・述語を一対一に対応させて記載します。また、原則、文型は能動態ですが、能動態とすると主語が冗長になるときは受動態とします。
  • 英文では主語の後ろに修飾節が係ることで主語と述語が離れてしまう傾向にあるため、主語は可能な限り短くすることを心掛けます。
  • かっこ書きはNGですので、「例えば…」などと記載します。
  • 過去形の誤訳を回避するため、「~と対応した…」よりも「~と対応する…」のように、状態を表す場合には「~する」がベターです。「~した」も状態を意味する文言ですが過去形の意味にも解釈されかねず誤訳の原因になるからです。
  • 日本語特有の表現は使用を避けます。例えば、「・」または「&」は使わず「および」にします。また、「いろはにほへと」などのように翻訳しても意味をなさないものも避けます。
  • 「~とすることができる」はmayとも翻訳できますがcanにも翻訳でき、誤訳の原因になるため「・・・でもよい」の方がベターです。
  •  使うことが必然ではない「接続詞」は使わないように心がけます。

EP 上記US版の留意事項は、欧州出願においても同様に留意すべき事項です。

CN 上記US版の留意事項の他にも、中国語への翻訳を考慮して、「AやB」という記載ではなく、「AおよびB」であるのか「AまたはB」であるのかを明確にします。中国語では「や」は「又は/及び」の意味を含むため誤訳の原因になるからです。

【00**】

 〇〇を示す情報には、A、BおよびCのうち少なくとも1つ(at least one of)が含まれる。すなわち、当該情報は、A、B、Cのうち1つまたは2つ以上(one or two or more of)の組み合わせでもよい。 なお、〇〇装置20における△△技術は、公知技術であるため、その詳細な説明は省略する。

US Super Guide事件(CAFC)による限定解釈「少なくともA、少なくともB、および少なくともC」を回避するため、「at least one of…」の説明を「one or two or more of…」で補説するのが適当です。なお、and/orは米国特許審判部(PTAB)では推奨されていません。

JP 発明の本旨ではない構成の技術内容が周知慣用技術である場合、その詳細な説明を省略可能です。省略が可能か否かの判断基準は、詳細な説明を省略した場合でも、請求項に係る発明の内容を実施できるか否かです。

【00**】

 〇〇装置100は、〇〇部101、〇〇部102を備える。〇〇装置100は***である(請求項のコピー)

【00**】

 入力部101は***(請求項のコピー)。入力部101は、例えば、センサ制御装置100における情報またはデータ入力用のコネクタ等である 。

US 米国特許実務のMPFを考慮し、機能的に表現した発明特定事項については、その構造物の例示を複数挙げておくことが望ましいです。

JP サポート要件を満たしていることを明確に示すため、請求項1の内容のコピーを記載することが適切です。

CN 中国特許実務においては特にサポート要件が厳格に判断されるため、特許請求の範囲の記載(権利化したい文言)をそのまま記載しておく必要があります。

【00**】

 〇〇部102は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、または、MPU(Micro Processing Unit)により…プログラムが実行されることで実現されてもよい。また〇〇部120は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路によって構成されてもよい。

JP 特殊な専門用語には、英語を併記しておくのが適当です。

【00**】

 次に、図*を用いて〇〇装置100における制御処理 について説明する。図*は、〇〇装置100における制御処理の動作の流れの一例を示すフロー図である…本発明の実施の形態に係る一態様は、フロー図に記載された各ステップによって構成されるものではなく、フロー図に記載された各ステップを含むものである。

US ソフトウェア関連発明の場合、MPFに対応する「構造」はアルゴリズム(処理手順)なので、処理手順を説明するためのフローチャートの記載は必須です。

CN 中国の実務では、方法の発明は各ステップを「含む」ものであることを明記する必要があるため、そのサポートを念のため明細書に記載しておくことが適当です。

【00**】

 本発明の実施の形態によれば、*** を処理・判定する。これにより、***の場合に、***の向上に寄与する。

【00**】

 さらに***(クレーム2以降の内容)を有することで・・・という効果を有する。***の場合に・・・(クレーム2以降の効果の根拠)できるためである。

JP 日本特許実務において、明細書に記載のない効果の主張は認められないため、従属請求項に対応する発明の効果も、実施の形態に明確に記載することが適切です。

US ソフトウェア関連発明については、米国の実務(101条関連:Alice最高裁判決)に対応するためにも、効果の記載が有用な場合があります。独立クレームだけでなく、従属クレームについても、対応する効果を根拠とともに記載しておくことが有効です。

CN 中国実務の拒絶対応において「顕著な進歩(有利な効果)」を主張するためにも、明細書に効果の記載をしておくことが有効です。

【00**】

 なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。以下、各変形例について説明する。

【00**】

 (変形例1)

EP 各変形例の任意の組み合わせは、明細書に漏らさずに列挙して、その効果についても言及しておくべきです。「以上説明した変形例は、任意の組み合わせによる実施が可能である」などと記載しても、それはクレームのサポートとして欧州の実務では認められないからです。

 

【00**】

 (実施の形態2)

 次に、本発明の実施の形態2に係るセンサ制御システム2およびセンサ制御装置200の構成例について説明する。

【00**】

 本実施の形態2に係る〇〇システム2および〇〇装置200は、*** (実施の形態1の構成要素だけでは解決できない)場合に、実施の形態1の図*記載の処理を適用する。

【00**】

 本発明の実施の形態2によれば、*** を処理・判定する。これにより、***の場合に、***の向上に寄与する

JP 実施の形態2の記載において実施の形態1と異なる点を記載する際には、実施の形態1を否定するような記載は避けるべきです。実施の形態1の発明が不完全と解釈されてしまうおそれがあるからです。

 

【00**】

 (コンピュータのハードウェア構成の一例)

 実施の形態および各変形例における各部の機能は、プログラムにより実現されてもよい。その場合におけるコンピュータのハードウェア構成の一例を図*に示す。

【00**】

 なお、センサ制御システム1におけるコンピュータに実行させるセンサ制御プログラムまたは説明された機能は、非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体(A non-transitory, tangible computer-readable storage medium) に記録されてもよい。非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体は、コンピュータ、CPU、MPU(Micro Processing Unit)等によってアクセスされることが可能な任意の記録媒体***。

US 米国特許法101条を考慮して、記録媒体は「非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体(A non-transitory, tangible computer-readable storage medium)」であることを予め明記しておくことが望ましいです。

 

(実施例)

【00**】

JP 化学物質/医薬関連の発明では、物の構造と名称からでは当該物の製造方法であったり使用方法であったりを理解することが比較的困難であるため、当該物の性質等を利用する用途の裏付けと併せ、「実施例」を設けて具体的に記載します。

 

【産業上の利用可能性】

【00**】

 本発明に係る〇〇装置、〇〇方法及び〇〇プログラムは***に有効である。

JP 発明が産業上利用することができることが明らかでないときは、当該発明の産業上の利用方法、生産方法、又は使用方法をなるべく記載するべきとされています。

 

【符号の説明】

【00**】



 

【書類名】要約書

JP 書類名は「要約書」です。要約書には【要約】および【選択図】という項目を必須で設けます。また、任意で【課題】/【解決手段】などの項目を設けることができます。これらは任意であるため、名称は【解決手段】/【効果】でも構いません。

 

【要約】/必須項目

JP 文字数は400字以内、好ましくは200~400字に収めます。文字数は【要約】の次の行から【選択図】の前行までの文字数をカウントするため、任意で設けた【課題】などの項目に付した左隅付き括弧(【 )から文字数がカウントされます。

US 米国特許実務では要約(Abstract of the Disclosure)150語以内を目安に作成します(※2013年12月18日施行の改正規則1.72にて好ましくは150語以内とされました)。

 

【課題】

JP 明細書の【解決すべき課題】と同じで構いません。

 

【解決手段】

US 日本の法律/特許実務においては、要約の内容が特許発明の技術的範囲の解釈に考慮されることはありませんが(特70条3項)、米国の実務においては、要約(Abstract of the Disclosure)の内容が権利範囲の解釈に用いられ得ます(2003改正規則,37 C.F.R. 1.72)(HILL ROM Co. vs KINETIC CONCEPTS INC., Fed. Cir. 2000)。そのため、米国出願/米国移行時の要約の内容の再考の手間を省くためには、日本出願の段階から請求項1の内容の上位概念を記載しておくことが有用です。また、米国の実務では、要約にsaidなどのクレーム特有の法律用語を記載しないため、日本出願の段階から「前記」の記載は不要です。なお、欧州・中国においては、日本と同様に、要約の記載を権利範囲の解釈に用いることは禁止されています。

US 米国の実務では、要約書(Abstract of the Disclosure)の内容が権利範囲の解釈に影響するため、日本出願の段階で参照符号を記載していたとしても、米国出願/米国移行時には参照符号を削除する方がよいです。

EP 日本の実務においては、選択図に含まれる参照符号は、内容の理解のために任意に記載して構わないとされていますが、欧州の実務では、図面中の参照符号を括弧内に記載しますので、欧州出願/欧州移行時の修正の手間を省くためには、日本出願の段階から参照符号を記載しておくと後の作業が簡便になります。但し、選択図に含まれる参照符号のみを構成(〇〇部など)の後に括弧で囲まずに記載し、選択図に含まれない参照符号は記載しないようにします。

 

【選択図】/必須項目

JP 【選択図】という項目は必須ですが、ここに図番を記載するか否かは任意とされています。選択図を記載する場合には、発明の特徴を比較的よく表現している図面の図番を1つだけ記載します。一方で、 図面を選択しない場合、または、図面がない場合には、当該箇所に「なし」と記載します。