法律用語「係る」は関係より関係が強い

「係」という字には「関係」よりも対象との関わりが強く、その関係性も重要であるという意味が含まれています。特許実務では、その意味合いを含んでいる「係る」という言葉と、「係属」という言葉が頻出用語です。なお、前者が用法が重要であるのに対して、後者は用法よりも具体的な時期を知ることが、実務上とても重要です。



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特許実務では、「係る」という言葉が頻繁に登場します。例えば、特許法の条文、審査基準、逐条解説書など。意味を厳格に知らなくても文書は読めますが、「係る」を使って文書を自ら書く知財専門家ならば、その意味・用法を知っておきたいものです。

係る(かかる)

「Aに係るB」は、「Aに関するB」と同様に、ある事に関係していることを意味しますが、「Aに関するB」よりも「A」との関係・繋がりが直接的であって、具体的には

Aの目的・内容となっているB

という意味です。

そもそも、「係」には、「関係」よりも対象との関わりが強く、その関係性が重要であるという意味が含まれています。例えば、学校のクラスの全員が教室を掃除することについて関係を持っていますが、「掃除係」の人たちは、掃除することについて強い関わりをもっています。

下図は「係る」と「関する」を比較したイメージです。「Aに係るB」ではAとBとがより直接的に繋がっているのに対して、「Aに関するB」ではAとBとがボンヤリとした関係であるイメージです。

特許法の条文に登場する「係る」を見てみると、例えば、「特許出願に係る発明」(特29条の2)とは、特許出願に関係がある発明というよりも意味は狭くて、特許出願の「目的・内容となっている」発明を意味しています。

また、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由」(特17条の2第5項4号括弧書)は、拒絶理由通知の「内容となっている」拒絶の理由を意味します。その他にも、特許法において下記のような表現が登場しています。

  • 特許権に係る特許異議の申立て/拒絶査定不服審判
  • 拒絶理由通知に係る拒絶の理由
  • 特許出願に係る発明/特許を受ける権利
  • 権利が共有に係る
  • 請求項に係る発明
  • 出願の変更に係る特許出願
  • 特許出願に係る願書
  • 特許権の侵害に係る訴訟
  • 特許異議の申立てに係る特許

係属(けいぞく)

ところで、「係る」と同様に「係」が含まれる特許用語として「係属(けいぞく)」があります。「~に係属」は「~における手続き等の対象となっている状態」という意味ですが、特許実務の世界では意味自体より「出願が特許庁に係属」の時期が極めて重要です。

出願が審査/審判等の手続対象として取扱中である状態を「出願が特許庁に係属」と言います。具体的には、

  1. 出願~設定登録
    又は
  2. 出願~拒絶査定・審決確定の期間

をいいます。当該期間内であれば、特許庁に対して出願に係る手続をすることができますが、出願がもはや庁に係属していないのであるならば特許庁に対して当該出願に係る手続をすることは出来ません。例えば、分割できる時期の1つに「特許査定の謄本送達日~30日」というものがありますが、30日経過前であっても設定登録されてしまうと、庁に係属しなくなるため、できなくなってしまいます。

ちなみに、「係る」は文語として用いられることが多く、口語としてはあまり使っている人を見たことがありません。人と話すときに、わざわざ「この出願に係る発明は…」と言わなくても「この出願の発明は…」と言えば思いが伝わるからだと思います。 

「係る」が口語で使われにくい一方、「係属」は使われます。実務の話をするとき「特許庁に係属中しているか/していないか」という時間軸上での明確な線引きが必要になることがあるからだと思います。なお、文語では「特許庁に係属」ですが口語では「庁に係属」です(と言われることが多い感があります)。



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