「時/とき、場合」の使い分けの図解

日常用語として「とき」と「時」は同一の言葉かもしれませんが、法律用語としては同音異義語です。明細書で「とき」の意味と「時」の意味とを混同して誤って使うと、サポート範囲に影響し、延いては権利範囲にも影響します。また、特許請求の範囲で誤用すると直接的に権利範囲に影響します。これらは、特許法の条文でも明確に区別されています。


TEXT BY SHIGERU KOBAYASHI


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「とき」と「時」は同音異義語です。日常生活やプライベートのメールでは使い分けを意識されていないと思いますが、法律用語としては「まったく」意味が違います。 

法律用語としての「とき」は「…の場合」(in the case of)を意味します。 請求項においても、明細書の【発明の詳細な説明】においても、「とき」は「場合」と同じように多用されていますが、 『ここでは「とき」にしてみるか…』 などと、無闇矢鱈に使われているわけではなく、「とき/場合」はちゃんと使い分けられます。 

「とき/場合」の使い分けは、次の通りです。 

  • 大きい条件は「場合」で括り、 
  • その中の小さい条件は「とき」で括る 

例えば、次のようなクレーム例があるとします。 

「車両の加速度センサが検知する加速度が所定条件を満たす場合に、〇〇センサが××を検知したとき、制御回路は△△部に…を出力させる」 

このクレーム例のように、使い分けがされていれば条件の大小関係がわかりますが、もし「…条件を満たす場合に、…検知した場合に…」とすると、読みにくくなるのは一目瞭然です。 

「とき」になっていることにより、クレームの解釈としては 

〇〇センサが××を検知した「その瞬間」に制御回路が動作する場合だけではなく、周辺回路の動作処理にかかる時間が経過した「少し時間が経過した後」に制御回路が動作する場合も、明細書のサポート範囲に含まれる 

となります。 

ところで、もしも、この明細書の例文において、「とき」ではなく「時」を使ったとしたら、大変です。明細書のサポート範囲は非常に狭いものになってしまいます。 なぜなら、法律用語において「時」とは「同時・その瞬間」(at the time of)を意味するからです。もしも、 

「〇〇センサが××を検知した時に、制御回路は△△部に…を出力させる」 

という文章であると、「〇〇センサが××を検知したと同時に・その瞬間に、制御回路が動作する」という場合のみが権利範囲になります。 

この「とき/時」の解釈の仕方は、出願書類全体を通して同じです。 

明細書においても、上記のように「時」で表現するとサポート範囲が狭くなります。明細書の場合には、このセンテンス以外の文章の意味を考慮することで、「とき」の場合もサポート範囲に含めることもできるかもしれませんが、第三者から突っ込みが入る余地は出来るだけ無くした方がよいです。 

もちろん、敢えて「時」と表現したい場合もあると思います。ですから、どのような条件を想定しているのかによって、「とき/時」を使い分けなければなりません。 

下図は、「とき」「時」のそれぞれの意味をイラスト化したものです。図解すれば区別も簡単です。 

図のように「時」は、一直線に進んで巻き戻しのきかない、時間軸の貴重な一点を指し示します。その概念の貴重さとは裏腹に、その範囲の狭さゆえ、クレーム記載では敬遠されます。 

一方で、「とき」はフローチャートの分岐ブロックのYesまたはNOが指し示す方向を意味します。「とき」は非常にアバウトな概念ですが、その範囲の広さゆえに、クレーム記載では重宝されます。 

なお、「とき/時」は、特許法の条文でも、明確に使い分けされています。 具体的には、「時」は、時刻を表現するとき、又は、ある手続と「同時」に他の手続がされたと擬制されるとき等の規定の表現に用いられています。 最も良い例が、特35条3項です。この規定をみると 

「従業者等がした職務発明について…勤務規則…に…あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたとき…特許を受ける権利は…発生した時から当該使用者等に帰属する」(※一部省略.下線は筆者による) 

とあり、特許を受ける権利が発生した「瞬間」に当該使用者等に帰属すると明記されています。 

このように、「とき」と「時」の法律用語としての意味は、まったく違います。権利の基礎となる各書類は技術文書であると同時に、法律文書でもあるから、これらを混同すると特許権の質に影響するので、留意したいです。



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