特許出願書類における「または」の留意事項

「AまたはB」は非法律の世界でも日常用語としてもよく使われる言葉ですが、特許実務においては、その使い方に少し留意しなければならないことがあります。具体的には、「AまたはB」を特許請求の範囲の記載に用いるとき、明確性要件を満たすように記載しなければならないだけでなく、権利行使をも想定して用いなければなりません。



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請求項に記載された「AまたはB」は、指し示す名詞の例示として「Aの場合であってもよいし、Bの場合であってもよい」という意味解釈ができますが、「AとBとが備えられていて、選択的にAとBのうち一方を指し示す」という意味解釈もできてしまいます。例えば、

【請求項1】

 所定の物体を検知した結果の情報を受け取り…認識処理する認識部と…

【請求項2】

 前記所定の物体は、車両、二輪車、または一輪車であって…請求項1に記載の認識装置。

のように請求項が記載されていた場合、請求項2に記載された「車両、二輪車、または一輪車」は請求項1の「所定の物体」の例示を列挙するにすぎません(※明細書の記載との対比で、意識的除外を意識する必要があります)。

一方で、例えば、特許権者が、センサから所定の物体の検知結果を受け取って認識処理する認識装置であって、センサは第1のセンサ(イメージセンサ)であっても第2のセンサ(ミリ波レーダ)であってもよいと想定していたとしても、

【請求項1】

 第1のセンサによる所定の物体の検知結果の情報、または、第2のセンサによる前記所定の物体の検知結果の情報を受け取り…

 前記所定の物体を認識する認識部と、を備える認識装置。

のように請求項が記載された場合、明細書の書き方にもよりますが、特許発明の技術的範囲に、「第1のセンサのみ備える認識装置、および、第2のセンサのみ備える認識装置」は含まれずに、「第1のセンサおよび第2のセンサを備えて、認識部がいずれかの検知結果の情報を選択的に受け取る」というように第三者から解釈・主張される余地があります(特に特許侵害訴訟の攻防においては)。

このように「AまたはB」を特許請求の範囲の記載に用いるときには、明確性要件だけではなく、明細書の記載の仕方にもよりますが権利行使の場面も考慮した方がよいです。

また、「AまたはB」だけではありませんが、特許請求の範囲の請求項を記載する際には、その文言が「どのような意味であるのか?」だけでなく、「その文言によって特許発明の技術的範囲がどのような影響を受けるのか?」をも想定しておくべきだと思います(自戒)。



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