包含関係:有する/含む/備える

「有する、含む、備える」について。いずれも包含関係を示しますが、細かく見れば意味が異なります。これら3つの言葉をどのように使い分ければいいのか。分かりやすい例文が、商標法第4条第1項にまとまって記載されています。



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クライアント様からもよく言われることですが、特許出願の書類において使われる日本語は日常生活ではあまり馴染みがないものもあります。例えば、「AとB」ではなく「AとBと」、「前記・当該」、「当接」(※私は意識的に使っていませんし、使わない方が良いとも思っていますが)など色々とあります。

その中でも頻繁に使われる用語の代表例が、包含関係を示す「有する、含む、備える」です。個人的には、これらの用語を使わない出願書類は一度も見たことがありません。

例えば、画像(点の集合)があって、その画像の中に特異点がある場合、日常会話では「画像の中の特異点」「画像のなかにある特異点」と表現されるだろうし、文語体では「画像に存在する特異点」と表現すると思います。しかし、出願書類では絶対に「画像に含まれる特異点」と表現します。

ところで、この画像の例の場合、「画像に含まれる特異点」とするのが妥当であると私は思いますが、包含関係を同様に示す「有する」「備える」を用いて、「画像が有する特異点」「画像が備える特異点」と表現することも問題ない気もしますが、個人的には違和感があります(私の考えが絶対的に正しいとは言い切れません)。

この「有する、含む、備える」の使い分けについては、商標法第4条第1項各号が非常に参考になります。それぞれの用語の使用例をみてみると、例えば、

  • 第5号:…と同一又は類似の標章を「有する」商標
  • 第8号:他人の肖像…芸名…筆名若しくはこれらの著名な略称を「含む」商標
  • 第18号:商品等…が当然に「備える」特徴…なる商標

というように「標章を有する商標」「著名な略称を含む商標」「商品等が当然に備える」のような使われ方をしています。この3つの用語の詳細な意味は、

  • 有する:持つ
  • 含む:要素として入っている
  • 備える:必要なものとして持つ

といった内容です。「標章を有する商標」については、商品等について業務上使用する標章が商標であり、文字図形記号・立体的形状といった外観上は標章も商標も実質的に同じでありますので、「含む」でも「備える」でもなく、最もジェネリックな「有する」が適切なのでしょう。

一方、「著名な略称を含む商標」については、まず、第8号は、人格権を保護するために他に装飾があったとしても特定人の同一性を認識させる標章があってはならないという規定です。「装飾という要素」及び「特定人の同一性を認識させる標章」という要素によって構成される商標において、「特定人の同一性を認識させる標章」は商標の一要素であるため、ここでは「含む」が適当であると言えます。

さらに、「商品等が当然に備える」というのは、「備える」が「必要なものとして持つ」という意味であることから「備える」が適切なのでしょう。

こうして、3つの意味を比べてみると、上記の「画像が有する/含む/備える特異点」については、特異点が画像(複数の点の集合)の一要素であることに鑑みれば、やはり「含む」が適切だろうと個人的には考えています。

業務遂行上、言葉の細かい使い分けには気を付けたいと思っているのですが、それ以上に、その癖が日常生活で現れないように気を付けなければならないし、誰にでも一意に伝わるよう、法律用語ではなく日常用語を使うように気を付けなければならないと思っています。例えば、日常会話では「適当」とは言わずに「適切」というべきであるように。



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