「前記、当該、上記」の特許実務での使い分け

前に登場した言葉を指し示す「前記」、「当該」、「上記」。どれも意味が似たり寄ったりで、使われる場面が、統一的に明確に分けられているわけではありません。しかし、多くの明細書を眺めていると、少なくとも特許実務の世界では、慣習的な使い分けの傾向は見受けられます。キーワードは、指し示す語句との「距離感」および「場面」です。 


TEXT BY SHIGERU KOBAYASHI


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特許出願書類の文章において、既に登場した名詞を指し示す際、「前記」「当該」「上記」という用語が用いられます。その意味…ほとんど同じ…ですが、慣習で使い分けがされています。

「前記」「当該」「上記」は、それぞれの意味の違いはわずかで、用法も厳格に定められているわけではありません。しかし、特許実務では「慣習的な使い分け」の傾向は見られます。使い分けのポイントは、 

  • 場面 
  • 距離感 

の2つです。以下、それぞれ具体的に説明します。 

「前記」

「前記」は、慣習的に、特許請求の範囲の【請求項】において使われます。逆に、明細書での使用頻度は高くありません。 具体的には、当該請求項、または、係り先の請求項の記載において、先に既出の名詞「〇〇」を指し示して「前記〇〇」と記載することで、 

請求項の記載にて、初めて登場する名詞と、既に登場した名詞を区別する

ために使われます。

ところで、「前記」は、読んで字の如く、「前の部分に書き記したもの」という意味ですが、請求項の記載においては、前に記載されたものを単純に指し示す役割だけでなく、請求項の記載を明確にする役割も担っています。例えば、下記のような請求項の記載があったとします。 

【請求項*】…〇〇は車両のウインドシールドの任意の位置に設置されたセンサを含み、前記センサは××を…  

この記載例において「前記センサ」とすることで、センサが任意のセンサではなく、「車両のウインドシールドの任意の位置に設置された」ものであることを明確にしています。また、「前記」を使うことで、わざわざ「~に設定されたセンサ」と繰り返して記載することを省くことができ、文章を整頓しています。 

「当該」「上記」

「当該」は、慣習的に、明細書の記載場面で使われています。これは、出願・中間処理で多くの明細書と向き合った経験によります。 

「当該」は、「いま話題になっている事柄に直接関係すること」(デジタル大辞泉,小学館)という意味ですが、この意味のとおり、明細書において直近に登場した名詞を特定するために使われています。例えば、下記のような感じです。 

【****】 センサ102が車両を検出したとき、当該車両に関連する情報を制御部103に出力し…。当該関連する情報とは、例えば、△△…である。 

一方で、「上記」ですが、慣習的に、「当該」に比べて記載箇所がより離れた名詞を指し示すときに使われています。 明細書の記載のなかで、「当該」「上記」のどちらを使うかの明確なルールはありませんが、指し示す語句との「距離感」によって使い分けているケースが多いです。 

上述したとおり、確固たる使い分けルールのない「前記」「当該」「上記」ですが、場面と距離感で区別できます。



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