特許法の重要条文-中巻(3~4章)

最終更新日:2019.7.3


特許法概説-上巻に続き、本ページでは、全11章からなる特許法の第3章「審査」から第4章「特許権」までに含まれる条文のうち、実務上重要な条文を厳選して列挙し、概説とキーワードを載せてます。

第三章 審査

48条の3[出願審査請求]

特許出願した後、出願審査の請求をすることではじめて実体審査に係属されます。出願審査の請求は、特許出願があったときは「何⼈も」「その⽇」から3年以内に請求できます。「何⼈も」とは、法上の⼈であればよいという意味であって、当該出願の出願⼈のみならず(共同出願⼈のうち⼀⼈による場合を含む)第三者も請求することができます。「その⽇」とは、実際に出願がされた現実の出願⽇であって、国内優先出願においては優先⽇ではなく現実の出願⽇が、パリ優先出願においては第1国出願⽇ではなく⽇本特許出願⽇が請求の始期になります。

KW︓現実の出願⽇、3年、審査請求料返還、減免制度

49条[拒絶査定]

拒絶査定となる理由つまり拒絶理由は、特許法49条各号に限定列挙されています。この限定的に列挙された拒絶の理由以外の規定によって拒絶査定とすることは禁⽌されています。

KW︓拒絶査定となる理由、限定列挙

50条[拒絶理由の通知]

拒絶理由がある場合に弁明の機会を与えずに拒絶査定とすることは酷であるため、拒絶理由の通知をもって意⾒書及び補正書を提出する機会が与えられます。通知される拒絶理由が最初であるのか最後であるのかによって、補正に際して課される要件が異なり、補正要件違反になった場合の扱いも異なります。なお、原出願及び⼀⼜は複数の分割出願のファミリ間において、ファミリ内の⼀の特許出願について通知された拒絶理由が、当該⼀の特許出願の出願審査の請求前にファミリ内の他の特許出願について既に通知された拒絶理由と証拠・条⽂が同⼀である場合、拒絶理由通知と併せて50条の2通知がなされ、最後の拒絶理由と同様の補正要件が課され、補正要件違反の場合は補正却下の対象となります。

KW︓最後の拒絶理由、50条の2、分割制度濫⽤

53条[補正却下]

本条は最後の拒絶理由通知に対する補正、特50条の2通知が併せて通知される最初の拒絶理由通知に対する補正が補正要件に違反する場合には補正却下される旨を規定しています。最初の拒絶理由通知に対する補正要件違反は拒絶理由である⼀⽅、審査繰返し回避のため、最後の拒絶理由通知に対する補正要件違反は却下の対象としています。すなわち、補正要件のうち3項(新規事項追加禁⽌)及び第4項(シフト補正禁⽌)のみが拒絶理由とされており、5項(⽬的外補正禁⽌)及び6項(独⽴特許要件)は最後の拒絶理由に対する補正等における加重要件であるため特49条には列挙されていません。なお、拒絶査定不服審判請求と同時にする補正が補正要件違反の場合に却下されることは特159条1項に規定されています。

KW︓50条の2、最後の拒絶理由

第三章の⼆ 出願公開

64条[出願公開]

すべての特許出願は、原則として、特許掲載公報が発⾏されたものを除き出願⽇から1年6⽉経過後に公開特許公報が発⾏されます。これを出願公開制度といいます。出願公開制度の趣旨は、重複研究及び重複投資の弊害の是正ですから、特許制度の根幹である「公開の代償としての権利付与」に係る公開とは、⽴法者の意思としては出願公開ではなく特許公報の発⾏を指しています。なお、実務上、特許庁における出願公開の準備⼿続に時間を要するため、実際は出願⽇から1年6⽉経過の後さらに約2週間経過後に公開されます(国内優先権主張と伴う場合は、基礎出願⽇から1年6⽉経過の後さらに約6週間経過後)。

KW︓重複研究、1年6⽉、優先⽇、64条の2

65条[補償⾦請求権]

出願公開により出願に係る発明が第三者に無断実施された場合、出願⼈に損失が発生し得ます。その損失を補償するため、所定要件のもと出願⼈に実施料相当額の補償⾦の⽀払請求権(補償⾦請求権)が認められています。補償⾦請求権の⾏使は給付訴訟を提起することで⾏います。

KW︓給付訴訟、書⾯、解除条件、停⽌条件、警告

第四章 特許権

66条[設定登録]

特許査定・審決の謄本送達⽇から30⽇以内に、第1年~第3年の特許料を納付することで特許権の設定登録がされ、それによって特許権が発生します。特109条の規定、産業競争⼒強化法第75条等によって特許料が軽減された場合も同様に、当該年分の特許料を⼀括納付する必要があります。但し、国が特許権者である場合、個⼈事業主であって市町村⺠税⾮課税者等である場合の第1年~第3年分の特許料(第4年~10年は半分に軽減)は免除です。

KW︓30⽇、第1年から第3年までの特許料

67条[存続期間]

特許権の存続期間の「始期」は特許権の設定登録⽇ですが、「終期」は出願⽇から原則20年です(存続期間の末⽇は出願⽇の翌⽇起算で算出)。例外的に、特許法施⾏令2条に列挙の承認に係る審査によって実質的に独占実施できない期間があったときは、5年を限度とした当該期間の相当分だけ、存続期間の延⻑が可能な制度があります(米国/欧州の延⻑制度も上限は5年です)。延⻑登録出願がされたときは延⻑されたものとみなされます。

KW︓20年、国内優先、67条の2、延⻑登録

68条[特許権の効⼒]

特許権者は「業として」特許発明を排他的に実施する権利を有し、その排他的効⼒の結果として、特許発明を独占的に実施できます。「業として」とは営利・⾮営利を問わず「事業として」という意味であり、「業として」の該否は、ⅰ)1回の実施であるのか/反復継続的な実施であるのか、ⅱ)営利⽬的か/⾮営利⽬的であるのか、ⅲ)事業の⽬的の範囲内か/範囲外かに関わらず、経済活動の⼀環としての事業上の実施であれば、「業として」に該当します。一方、事業ではない個⼈的・家庭的な実施は「業として」に該当しません。

KW︓実施⾏為独⽴、インクタンク事件、BBS並行輸入事件

69条1項[試験・研究]

特許権の効⼒は、それが業としての実施であるか否かにかかわらず、本条項規定の「試験⼜は研究のためにする特許発明の実施」には及びません。「試験・研究のためにする特許発明の実施」は、業としての実施か否かとは別の軸での論点です。なお、「研究のためにする」とは「研究としてする」と解釈すべきであるとされています。

KW︓研究としてする、業として

70条[特許発明の技術的範囲]

特許権侵害訴訟においては、被疑侵害品が特許発明の技術的範囲に属するか否かが争われます。そして、特許発明の技術的範囲に属するか否かは、5つの原則的基準と、例外的基準である均等論に基づいて判断されます。すなわち、特許発明の技術的範囲は、1)特許請求の範囲の請求項の記載によって定められますが、その範囲の画定においては、請求項の⽂⾔だけでなく、2)発明の詳細な説明、3)審査の過程で出願⼈が⽰した意⾒、4)出願時の公知事実、5)出願⼈が特許請求の範囲から意識的に除外・限定した事項が参酌されます。

KW︓詳細な説明参酌、意識的除外、均等論

72条[利用・抵触]

特許発明が先願に係る他⼈の特許発明等と利用関係にあるとき、⼜は特許権が先願に係る他⼈の意匠権・商標権と抵触関係にあるとき、業としての特許発明の実施は制限されます。

KW︓思想上の利⽤、実施上の利⽤

73条[特許権の共有]

特許権を複数の人が共有するとき、その持分の譲渡および実施権の許諾に⼀定の制限がかけられます。そして、その⼀定の制限の内容が特73条各項に規定されています。なお、共有に係る特許権の各共有者は、自己の持分権に基づき、単独で差⽌請求できると解されます。また、各共有者は、損害賠償請求権・不当利得返還請求権は可分な金銭債権であるため、⾃⼰の持分に応じた額の請求ができると解されています。

KW︓持分譲渡、実施、⼀機関、持分権

77条[専用実施権]

特許権者は、特許権について専⽤実施権設定登録申請書を特許庁長官に提出することで専用実施権を設定でき、専用実施権者は設定⾏為で定められた範囲内において業として特許発明を、原則、独占排他的に実施できます。但し例外的に、設定登録前に許諾された通常実施権は、その専用実施権者に対して対抗⼒(不作為請求権としての効⼒)を有します。

KW︓⽤益物権、移転、完全独占的通常実施権

78条[通常実施権]

特許権者は特許発明の通常実施権を他⼈に許諾することができ、通常実施権者は、設定⾏為で定めた範囲において、その特許発明を事業として実施できます。通常実施権は、専用実施権という用益物権とは異なり、特許権⾏使に対する不作為請求権であって債権であるため、同⼀時間・同⼀内容・同⼀地域等において複数の者に許諾することができます。

KW︓不作為請求権、債権、ポットカッター事件

79条[先使用権]

先使用権とは、発明を独⽴的に想起し、当該発明に係る他⼈の特許出願(先願)の前から継続的に実施していた先使用者に認められる無償の通常実施権をいいます。発明実施によって直接的に国内産業の発達に貢献している先使用者を保護する趣旨です。

KW︓直接的な貢献、ウォーキングビーム式加熱炉事件、地球儀型トランジスターラジオ意匠事件

100条[差⽌請求権]

特許権者等は、特許権等の侵害者等に対し、侵害を停⽌等させるために差⽌請求権を⾏使することができます。また、それに付帯して侵害の予防に必要な⾏為を請求できます。差止請求権は物権的請求権であるため、故意過失等の主観的要件は不要です。

KW︓物権的請求権、付帯請求、リガンド分⼦事件、カリクレイン事

101条[間接侵害]

無権原の第三者が業として侵害の蓋然性の⾼い予備的⾏為を⾏った場合、係る⾏為は「侵害とみなす⾏為」であるとされ、特許権を間接侵害したとみなされます。間接侵害の具体的な⾏為内容は本条各号に規定され、その⾏為は3類型:①専用品の類型(1・4号)、②故意類型(2・5号)、③⽬的意識下の所持の類型(3・6号)に分類できます。また、「特許権の直接侵害が存在しなくても間接侵害は成⽴しうるか否か」という論点についての考え⽅として、直接侵害がなくても間接侵害は独⽴して成⽴しうるという独立説と、直接侵害があるならば間接侵害も従属して成⽴しうるという従属説があります。この論点を考える上で、最終⾏為の形態の如何によって間接侵害の成否が論じられる傾向にあるため、最終⾏為の形態に着⽬するのが肝要です。

KW︓のみ品、共同遂⾏理論

102条[損害額の推定]

特許法は、特許権が無体財産であるから損害額の⽴証は困難である事情に鑑み、特許権侵害の損害賠償請求における損害額の算定⽅式を特102条各項に特別に規定しています。1項及び2項では逸失利益の算定ルールが規定されています。⼀⽅、本条3項は「その賠償を請求することができる」とあるように、損害額をライセンス料相当額とみなす規定です。

KW︓逸失利益の算定、ライセンス料相当額

103条[過失の推定]

特103条の過失の推定規定は、特許発明の内容は特許公報に開⽰されていることに鑑み、過失についての⽴証責任を転換するものです。すなわち、特許発明を業として実施する無権原の第三者は、特許権等を侵害することにつき過失があったと推定され、損害賠償を免れるためには過失がなかったことを⽴証しなければなりません。これは、特許発明を事業として実施する者に対して注意義務を課すものです。

KW︓⽴証責任の転換、注意義務、特104条

104条の3[権利⾏使の制限]

特許権侵害訴訟において、被告が権利⾏使制限の抗弁として、特許は無効理由を有する旨等を⽴証して特許は無効にされるべきと認められるときは差⽌請求等は棄却されます。本条はキルビー事件最⾼裁判決を契機に新設された規定ですが、判⽰された明⽩性要件は条⽂の要件として規定されず、特許が無効であることが「明らか」とはいえない場合であっても無効理由の有無を判断できるとされています。

KW︓キルビー事件、明⽩性、権利⾏使制限の抗弁

107条&108条[特許料納付]

特許料は、権利維持のために徴収される料金です。初期の特許料は、権利維持の妨げとならない程度の低額に抑えられ、中期〜後期は⾼額になる累進制が採られています。そのため、例えば、第10年以降は、その時点で事業に必要及び有⽤な請求項とそうではない請求項とを⾒極めて、必要な請求項のみを維持することが効果的です。

KW︓累進制、国に属する特許権、設定登録、年金



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