特許法の重要条文-上巻(1~2章)

最終更新日:2019.7.3


特許法の条項はすべて法目的達成のために必要なものですが、実務上は殆どお目にかからないものも少なくありません。本ページでは、全11章からなる特許法の第1章「総則」から第2章「特許及び特許出願」までに含まれる条文のうち、実務上重要な条文を厳選して列挙し、概説とキーワードを載せています。詳細な学習をする際の目次的な役割を担うはずです。ちなみに、上巻・中巻下巻にかけて列挙された条文は、弁理士2次試験(論文試験)のために、最低限おさえておかなければならない条文でもあります。

第⼀章 総則

1条[法⽬的]

特許法が産業発達という法⽬的をどのように達成しようとしているかを理解するためには、特許法の条項を「発明の保護」の側⾯と「発明の利用」の側⾯から観察することが肝要です。すなわち、「発明の保護」と「発明の利用」との調和を図る具体的な規定を理解することで、特許法の全体像を把握できます。

KW︓発明の保護、発明の利⽤、特68条、特64条

2条1項[発明の定義]

特許法における「発明」の意味は、本条項に規定される定義を分節し、各用語のポイントを理解することで全体として理解できます。なお、請求項に係る発明が法上の発明として認められるか否かは特29条1項柱書で審査されます。

KW︓反復可能性、創作、主観的に新しい、育種増殖法事件(最⾼裁,H12.2.29)

2条3項[実施の定義]

特2条3項は、発明のカテゴリーごとに発明の「実施」について定義しています。実施⾏為の定義は、経済のグローバル化、技術進歩、条約の要請によって改正を繰り返しています(H6の譲渡等の申出、H14のプログラム、H18の輸出)。

KW︓プログラム、輸出、カリクレイン事件

17条の2[明・請・図の補正]

先願主義のもと出願を急ぐ事情、無体物である発明の⽂章化は困難である事情に鑑みて、特許法は、⼀定の時期的制限及び内容的制限のもとで明細書等の補正を認めています。審査⼿続が進むにつれて補正要件が加重され、補正要件違反の扱いを拒絶理由から補正却下へと厳しくすることで、審査が迅速且つ的確に収束するように特許制度が設計されています。

KW︓当初明細書、STF、内的付加、独⽴特許要件、加重要件

第⼆章 特許及び特許出願

29条1項柱[発明性&産業上利用可能性]

特29条1項柱書は請求項に係る発明が(ⅰ)発明該当性(特2条1項が定義する発明に該当するか否か)及び(ⅱ)産業上利用可能性の2つの要件を満たすことを要求しています。産業上利用可能性の審査では、製造業、通信業その他の産業のうち何れの分野に該当するかではなく、「発明が産業上利⽤可能性を有するか」の論理的対偶として「産業上利⽤可能性を有しないものは発明ではない」という観点で判断されます。

KW︓2条1項、全体としての自然法則の利用、ノウハウ、医療行為

29条1項各号[新規性]

特29条1項各号は、特許出願前に⽇本国「内外」において新規性を失った発明は特許を受けることができない旨を規定しています。「出願前」は「⽇前」と異なり、「出願の時分」までもが考慮されます。なお、新規性有無の判断の前提として行われる発明の要旨認定において、機能的クレームは原則、当該機能を有する全ての物を意味すると扱われ、PBPクレームは最終生産物⾃体を意味すると扱われ、当該生産物が公知であるときは、製造⽅法が公知が否かにかかわらず新規性は否定されます。

KW︓公知・公⽤・刊⾏物等公知、リパーゼ事件

29条2項[進歩性]

特29条2項は進歩性を要求しています。進歩性は請求項に係る発明を当業者が容易に想到する(=思案した結果、発明を思いつくに⾄る)ことができたか否かの基準を⽰す概念です。なお、進歩性有無を判断する際、出願後に公知になった刊⾏物を進歩性を否定する引⽤⽂献に⽤いることは当然認められませんが、⼀⽅で「出願当時の技術⽔準を…刊⾏物によって認定し…進歩性の有無を判断」することは違法ではないとされています。

KW︓単なる寄せ集め、設計変更、S51(⾏ツ)9号審決取消事件(最⾼裁,S51.4.30)、動機付け

29条の2[拡⼤先願の地位]

特29条の2は、後願Bの出願後に公開された先願A(=後願Bの⽇前の出願)の願書に最初に添付された明細書等に記載された発明と同⼀の発明については、原則、後願Bは拒絶されることを規定しています。但し3つの例外:ⅰ)発明者が完全同⼀、ⅱ)出願⼈が完全同⼀@後願の現実の出願時、ⅲ)外国語特許出願が翻訳⽂不提出により取下擬制の場合には拒絶査定の理由とはなりません。

KW︓実質同⼀、優先⽇、出願⼈完全同⼀、知財⾼裁 H17(⾏ケ)10437(H18.1.25)

30条2項[新規性喪失の例外]

特許を受ける権利を有する者の⾏為に起因して公開された発明であって、新規性喪失⽇から1年以内に「その者」が申し出・証明書とともにした特許出願に係る発明については、⾮公開擬制とされます。すなわち、公開された発明について本規定が適⽤されると、出願に係る発明の新規性・進歩性の判断において「公開された発明」は引⽤発明とはなりません。なお、本規定の適⽤を受けるための書⾯の提出は、願書へ特記事項「特許法第30条第2項の規定の適⽤を…」を記載することで省略できます。

KW︓⾮公開擬制、H30年改正、1年、昭和61年(⾏ツ)第160号審取請求事件,最⾼裁(H1.11.10)

35条[職務発明]

使用者・法⼈等(使用者等)のもとで、従業者・法⼈の役員・公務員(従業者等)が発明をすることがあります。そのうち「使用者等の業務範囲に属する発明であって、且つ、発明をするに⾄った⾏為がその使⽤者等における従業者等の現在⼜は過去の職務に属する発明」を『職務発明』と⾔います。なお、それ以外を自由発明、または業務発明といいます。

KW︓実施権、相当の利益、青色発光ダイオード、オリンパス事件、日立製作所光ディスク事件

36条4項1号[実施可能要件]

特36条4項1号は、実施可能要件として発明の詳細な説明は当業者が実施できる程度に明確かつ⼗分に記載されることを要求する他、委任省令要件を要求しています。実施可能要件は、本条項を⽂字通り読むと明細書の規定のようにも解釈できますが、特49条に列挙されているとおり請求の範囲に関する要件です。なお、委任省令要件は本条項のうち「(発明の詳細な説明の記載は)経済産業省令で定めるところにより…記載したものであること」に該当する部分の要件です(特施規24条の2)。

KW︓実施可能要件、明確かつ⼗分、実施例

36条6項[クレーム記載要件]

本条項はクレームの記載要件を特許要件として規定しています。特に1号でサポート要件を、2号で明確性要件を要求しています。サポート要件の判断では、クレームの発明が、発明の詳細な説明に記載されているか否かだけでなく、詳細な説明の記載に基づいて当業者が発明の課題を解決できる範囲内か否かも考慮されます。また、明確性要件の判断では、発明特定事項の記載が不明確である場合だけでなく、技術的不備/非類似の機能が択一的に記載されたことによる技術的関連性の欠如/上限又は下限の⼀⽅のみ記載された相対的表現が認められる場合にも明確性要件違反となります。

KW︓サポート、偏光フィルム事件、明確性、PBP、プラバスタチンナトリウム事件

37条[発明の単⼀性]

発明の単⼀性は、複数の発明が同⼀の⼜は対応する「特別な技術的特徴」を有する関係を⾔い、「特別な技術的特徴」は技術的特徴が先⾏技術に対して技術上の意義を有することをいいます。審査においては、2以上の請求項に係る発明が単⼀性の要件を満たすか否かは2つの観点から判断され、まとめて審査される対象が決定されます。具体的には、STFに基づいて審査対象を決定する観点と、審査の効率性に鑑みて審査対象を決定する観点とに基づき、まとめて審査される対象が決定されます。

KW︓STF、審査の効率性

38条[共同出願]

複数の者が一体的・連続的な協力関係のもとで発明をしたとき、それを共同発明といい、係る場合、特許を受ける権利は複数の発明者の共有となります。共同発明については、共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができません。

KW︓着想の提供、着想の具現化、共同発明

39条[先願]

特許制度は新規発明の公開の代償として特許権者に対して⼀定期間独占権を付与するため、同⼀発明について2以上の特許権を発生させることは認められるべきではありません。そこで、異なる⽇に、同⼀の発明について複数の出願がされたときは、最先の出願のみが特許を受けることができるとされています。2以上の発明が完全同一だけでなく、実質同一の場合も「同一発明」と扱われます。

KW︓実質同⼀、冒認出願に先願の地位、H23改正

41条・42条[国内優先]

国内優先制度は、基礎発明の出願後まもなく改良発明がされることがある事情に鑑みて、先の出願に優先権(国内優先権)を認める制度です。国内優先制度は、上位概念抽出/実施例補充の他、先の出願の内容を変更せずに国内優先出願することで実質的に特許権満了時を1年先送りする目的でも⽤いられます。なお、国内優先出願からの分割出願は原出願同様に優先権主張でき、原出願で提出した優先権証明書は分割出願時に提出されたと擬制されるため、原出願の願書に【先の出願に基づく優先権主張】の欄を設けた場合は、願書に当該欄を設ける等の特別な手続は不要です。

KW︓先の出願が庁係属、分割出願ではない

44条[分割出願]

2以上の発明を含む特許出願は、その⼀部を分割出願とすることができ、特44条の規定に基づいて適法にされた分割出願は、⼀部の条項(特29条の2:他の特許出願、特30条3項)を除いて出願時遡及効を得ます。分割出願は、制度の性質上、発明の単⼀性違反の拒絶理由の解消策が第⼀義的な利⽤態様ですが、その他にも、1)拒絶理由が発⾒されていない請求項の早期権利化、2)クレームを上位概念化したいが補正で対応できないとき、3)出願したのち即の早期審査請求と併⽤、4)規格特許(標準必須)に係る特許出願の場合にも活用されます。

KW︓補正、最初の拒絶査定、上申書



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