クレームには明確性要件/明細書には日本語の明確さ

請求項(クレーム)の記載には「明確性要件」が求められます。一方で明細書では、その内容が請求項に係る部分でなければ基本的には拒絶理由に直結しないため「明確性要件」は求められませんが、明確な日本語の記載を心掛けるのがベターです。ところで、特許と小説とでは、言葉の扱い方が本当に対極にあると思います。



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特許法36条6項2号は「特許を受けようとする発明が明確であること」を記載要件として要求しておりますが、この記載要件が要求されるのは請求項(クレーム)の記載であって、明細書の【発明の詳細な説明】の欄の記載ではありません

したがって、請求項の記載の一部にでも不明確な記載が含まれていれば拒絶理由になりますが、明細書の【発明の詳細な説明】の欄の記載の一部に不明確なものが含まれていたとしても、それが請求項に係る内容でなければ、それを理由に拒絶理由が通知されることはありません。

(明細書の記載のうち、請求項に係る内容に不明確な部分があって、それによって実施可能要件に影響がある場合には拒絶理由の対象になります)

しかし、このことは「特許要件を満たさなければならないという最低限の要求事項」であって、明細書の【発明の詳細な説明】の欄において不明確なものが含まれてしまってもよいわけではありません

【発明の詳細な説明】の欄に不明確な記載が含まれていれば、権利解釈の際に疑義を生む可能性を否定できませんし(特許法70条2項)、さらには、英語等の外国語に翻訳するときにも苦労することになります。だからこそ、明細書を執筆する際にも、自分が書いている日本語の意味が不明確にならないように気を付けなければなりません(気を付けています)。

知財専門家として「ワーク」のときはいつも記載の明確性に留意しているため、「ライフ」の場面においても職業病のように日本語の明確性・言葉の定義の明確性が気になることがあります。だからこそ、小説を読んでいるときは、日本語がもつ「趣が深く味わいがある微妙さ」が楽しいです。

「特許という世界」における言葉の扱い方と、「小説という世界」における言葉の扱い方とは、本当に対極にあると思います。

例えば、「注文の多い料理店」。客が店に注文を多くしている料理店なのか、客に店が多くを注文する料理店なのか分かりません。特許的にはNGですが、小説であれば名著になる。「注文の多い料理店」は、日本だからこそ生まれた作品なのかもしれません。微妙なり日本語。



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