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Q.020 事業のコア技術についての発明は特許出願したので、それで十分でしょう…

事業のコア技術についての発明は特許出願したので、それで十分でしょうか。それとも、事業のために、他にも出願しておいた方がよいのでしょうか。もし、他にも出願すべきならば、どのような発明を出願すればよいでしょうか。




弁理士からの回答

大概の場合は、基本発明について特許出願しても、それで十分とは言えません。特許請求の範囲は、製品の設計仕様ではないですし、製品は、ユーザの成長とともに機能が追加・改良されるのが常だからです。

もし、基本発明についてしか特許権を取得せず、周辺技術や応用発明については、他者に特許権を取得されたら、ライセンス交渉などによって事業に支障をきたしかねません。ですから、事業を守り成長させるためにも、応用発明についても出願するのがよいと思います。

この応用発明の創出には方法があります。基本発明だけでは解決できない課題を挙げて、それを解決する一つまたは複数の手段(発明)を創出し、出願していくという方法です。こうすることで、1つの製品コンセプトを特許権の城壁で守れることができます。

ただし、この手法によると知財活動資金もそれ相応に必要になってきますので、活動推進には経理的な判断、ひいては経営上の判断が必要になります。したがって、現実的には、許される予算の中で、費用対効果のベストポイントを探って活動するのが良いと思います。



回答の詳細な説明

結論から申しますと、大概の場合は、基本発明について特許出願しても、それで十分とは言えません。費用対効果を考慮しても、基本発明だけで十分といえるのは、

  • 基本発明を内容とする技術と、周知慣用技術さえあれば製品が完成する場合
  • 基本発明を内容とする技術でしか製品を製造等できない(応用する余地がない)場合

などの場合だけであって、このようなケースは少ないと思います。特許請求の範囲は、製品の設計仕様ではないですし、製品は、ユーザの成長とともに機能が追加・改良されるのが常だからです。

もし、基本発明についてしか特許権を取得せず、周辺技術については、他者に特許権を取得されてしまったら、製品の製造販売においてライセンス交渉が発生しかねません。また、基本発明を改良した発明について他社に特許権を取得されたら、改良製品を販売できなくなる可能性もあります。

ですから、事業を守るためにも、また、事業の成長のためにも、周辺技術や改良技術などの応用発明について特許出願をして、特許資産(ポートフォリオ)を充実させていくことが望ましいです。

例えるなら、特許ポートフォリオは山城です。山城を構築するとき、本丸だけではなく、二の丸や三の丸、城壁、帯曲輪、捨曲輪というように曲輪を築いていきます。それと同じで、製品を守るためにも、基本発明だけでなく、応用発明についても特許権を取得しておくのが有用だと思います。

ところで、ご質問にもありますが、応用発明の創出にはコツがあります。それは、製品を実現する際に、基本発明だけでは実現できないこと、基本発明だけでは解決できないことなどを技術的課題として複数列挙し、その課題を次々に解決していきます。具体的な方法として、初級と上級があるので、順に説明します。

1.初級編

基本発明によって「**まで実現できるが~の場合にはAという課題がある」という場合、その課題Aを解決する手段を創出したら、それが応用発明になります。そして、その応用発明で「**まで実現できるが~の場合にはBという課題がある」ことをさらに見つけて、そのBという課題を解決する手段を創出すれば、さらなる応用発明になります。こうして次々と課題をチームでブレストしながら挙げていけば、それらを解決するものが応用発明になります。

2.上級編

「初級編」のやり方は、課題を抽出し、それを解決する手段(発明)を次々に挙げていくにすぎず、それは特許ポートフォリオを「線」で捉える方法でした。

これに対して「上級編」は、1つの課題に対して複数の解決手段を創出し、それぞれ出願していくという方法です。こうすることで特許ポートフォリオを「面」で捉えることができます。このように、「面」で特許ポートフォリオを築く方法を、一般的には群出願と言ったりします。この手法を図解すると、下記の図のようになります。

こうすることで、1つの製品コンセプトを縦横無尽の特許権の城壁で守れます。

ただし、出願件数が多いということは、労力だけなく資金も必要になってきます。

日本国内だけであっても代理人をつかうと、1件あたりの出願~権利化まで50万円超、審判等があった場合にはそれ以上の金銭がかかります。さらに、それだけ多くの権利が発生すると、年金も結構かかってきます。

ですから、群出願は技術・知財の観点だけでなく経理的な判断もいるので、経営上の判断が必要になります。現実的には、許される予算の中で、費用対効果のベストポイントを探りながら、出願を推進していくのがよいと思います。