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Q.018 ユーザーインターフェースに特徴をもたせた「顧客ごとに割り当てたID…

ユーザーインターフェースに特徴をもたせた「顧客ごとに割り当てたIDに基づいて、提供する操作画面を変更する」という内容の発明を創出しました。どのような形で発明を捉え、出願するのが良いでしょうか。また、注意しなければならないことは、ありますか。




弁理士からの回答

インターフェースに技術的特徴があるならば、ソフトウェアの発明として、

実現しようとするサービスの内容が画面上に表示されている態様

を発明として捉えるのがよいです。上手く書けば、侵害立証が比較的簡単な権利を作れます。ただし、ご相談されているような「顧客情報」など非・自然的な要素を含む発明である場合、「法上の発明」の該当性について留意が必要です。

具体的には、「CPU、記憶装置などのハードウェアが用いられ、それと協力して、ソフトウェアによる特有の情報が演算処理されている」という要件を満たすか否かで、「法上の発明」に該当するか否かを判断します。

重要なのは、「特有の情報を演算処理するという要素が含まれていること」です。特有の情報を演算処理するという要素があれば、ハードウェアとして登場するのがコンピュータだけであっても発明性の要件を満たしますが、一方、CPU、メモリ、センサを書き並べても、特有の情報を演算処理する要素がなければダメです。だから、ハードウェアを記載するだけでなく、本質的に発明性の要件を満たすことが重要です。



回答の詳細な説明

「操作画面の変更制御」のようにインターフェースに技術的特徴があるならば、ソフトウェアの発明として、

実現しようとするサービスの内容が画面上に表示されている態様

を発明として捉えるのがよいです。特許請求の範囲の記載を上手く書けば、侵害立証が比較的簡単な権利を作れるからです。

ただし、ご相談されているような「顧客のID情報」など非・自然的な要素(人が取り決めたもの)を含む発明である場合、侵害立証性を高く仕立てられる一方、「法上の発明」の該当性(以下、発明性の要件とも言います)について留意しなければなりません。

以下、順を追って説明します。

まず、一般に「ソフトウェア関連発明」と一括りにしていますが、次のように2つのカテゴリに分けられ、「法上の発明なのか」という要件判断の考え方に違いがあります。

  1. 画像処理など自然的な要素で構成される発明
  2. 顧客情報など非・自然的な要素を含むソフトウェア発明

具体的には、カテゴリ1の画像処理など自然的な要素で構成される発明は、通常の発明、例えば、通信装置に関する発明などと同じように発明性の要件を判断できます。機器の具体的な制御にソフトウェア処理を使うといっても、通常の機器発明にソフト処理を追加しているだけだからです。

一方、今般の発明のように、カテゴリ2の「顧客情報など非・自然的な要素を含む…」場合は、通常の発明と同様には考えられません。

例えば、下記のような内容の発明があったとします。

「ソフトウェア処理によって、顧客情報を、通信ネットワークを介して受信し、受信した顧客情報をディスプレイに表示し、ユーザが、表示された顧客情報から特定の情報を抽出する」

「顧客情報」を含んではいますが、通信ネットワーク手段などにおいて物理法則を使っているので、通常の発明と同様に考えられるとも思われます。しかし、通信ネットワークを介して受信することも、情報をディスプレイに表示することも一般的な技術に過ぎません。

そうすると、技術のポイントは「特定の情報を抽出」という部分しかなく、抽出しているのはユーザですから、もはや特許法が保護しようとする発明ではありません。

このように、顧客情報などを含む場合は、発明性の要件を一般原則的に捉えるだけではキチンと判断できませんので、特殊な考え方をします。そして、その特殊な考え方とは、

「CPU、記憶装置などのハードウェアが用いられ、それと協力して、ソフトウェアによる特有の情報が演算処理されている」

という要件を満たすか否かという考え方です。この要件を満たせば、今般のように、顧客のID情報を扱う発明も「法上の発明」に該当します。

なお、ここで重要なことは、発明の内容にハードウェアが含まれていることよりも、

 特有の情報を演算処理するという要素が含まれていること

の方が重要です。特有の情報を演算処理するという要素・手段があれば、ハードウェアは単にコンピュータだけであっても、発明性の要件を満たします。しかし、一方で、いくらCPU、メモリ、センサ云々と書き並べても、特有の情報を演算処理する要素がなければダメです。だから、ハードウェアを記載するだけでなく、本質的に発明性の要件を満たすことが重要とされています。

このような顧客情報などの非・自然的な要素を含む発明の特殊な扱い方は、日本特許実務だけの問題ではありません。米国特許実務においても、抽象的アイデアを「著しく超える何か」が求められ、クレームのプリアンブルにハードウェアを記載しただけではその要求に応えることはできず、クレームに、特定の技術又はコンピュータ機能を改良する要素がなければならないとされています。

今般の発明のようにカテゴリ2に属する発明が発明性の要件を満たすためには、小手先のテクニックでどうなるものでもなく、発明の捉え方が重要になります。また、他の発明もそうですが、ソフトウェアの発明は特に、各国ごとに審査対応を異ならせる必要があります。

ですから、ソフトウェアの発明を出願するに当たっては、それに詳しい専門家の知見を活用する方がよいと思います。