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Q.017 特許権は「量より質」といいますが、質の高い良い権利とは、どんなもの…

特許権は「量より質」といいますが、質の高い良い権利とは、どんなものなのでしょうか?権利範囲という言葉があるくらいなので、やはり、権利範囲の広い権利というものが良い権利なのでしょうか。




弁理士からの回答

個人的には、「権利範囲が広い」ということは、「大は小を兼ねる」程度の意味でしかないと思っています。権利範囲の広さに絶対的価値があるのは間違いありませんが、特許権をつくるときに、それを第一義的な価値として追い求めるのは違うと思います。

そして、何が「良い権利」の本質かというと、あくまで個人的な意見ですが、

実際に実施する権利または他人が実施したいと思う権利

だと思います。コンペチタを含めた第三者、もっと言うと皆が実施したいと思うような特許発明であれば、差し詰め、その内容はエンドユーザにもウケるということです。

特許権は、製品・サービスが市場に流通してこそ役立つものなので、結局、ユーザにウケる発明なのかどうかが重要です。「広いけれども誰も興味を示さないものより、狭いけれどもみんなが興味を示す権利のほうが価値は高い」ということだと思います。



回答の詳細な説明

まず、権利範囲が広いというのは、「権利の効力が及ぶ範囲が広い」という意味です。権利の質を測るとき、権利範囲が広いのか狭いのかでいうと、もちろん広い方がよいです。ですが、それは「大は小を兼ねる」程度の意味でしかないと個人的には思っています。

権利範囲が広いことに絶対的な価値があるのは間違いありません。しかし、発明創出時から「権利範囲の広さを狙う」のはおかしいと思いますし、知財専門家が発明に基づいて権利をつくるときに「権利範囲の広さ」を第一義的な価値として追い求めるのも違うと思います。

例えば、適用される技術分野を特定しない一般的な理論式を数式で表現したにすぎない発明(請求項の記載)では、権利になったとしても、侵害立証容易性の観点からいって、事業では使いづらいし、良い権利とは言えません。また、そのような内容では、TLOが権利移転を考えたときの財産権としての価値も低いと思います。

では、なにが「良い特許権の本質」なのかというと、 

実際に実施する権利または他人が実施したいと思う権利

であると私は思います。あくまで個人的な意見ですが。

そもそも、特許権は「事業をうまくやっていくための道具」であると、私は思います。特許は目的ではなく事業繁栄のための手段ということです。ですから、特許権は「事業に貢献できる権利」でなければなりません。

そして、権利をもって、どうやって事業に貢献するかを考えると、「出願人が実際に実施する権利、または、他人が実施したいと思う権利」に行きつくと思います。

出願人が実施するのであれば、その事業のコア技術・周辺技術について排他的に実施できることが保障され、その保障は事業の競争優位性をもたらします。

また、コンペチタを含めた誰もが実施したいと思うような特許発明であれば、差し詰め、その内容はエンドユーザにもウケるということです。

特許権は、製品・サービスが市場に流通してこそ役立つものなので、結局、ユーザにウケる発明なのかどうかが重要です。

広いけれども誰も興味を示さないものより

狭いけれどもみんなが興味を示す権利のほうが価値は高い

「みんなが使いたい」と思う発明を考えるのは難しいです。ですが、発明創出するときの思考的・心理的な方向性として、社会的な課題を見出し、それを技術でどうやって解決できるかを考えれば、みんなが使う、または使いたいと思う発明に近づくと思っています。

そして、その本質を捉えた上で、知財専門家が発明を適切な視点から捉えることで侵害立証性を高め、且つ、権利範囲をいたずらに狭くしないようにする努力、無効理由を含まない努力をすることで「良い権利」がうまれるのだと思います。