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Q.014 第三者と争うことなく、製品サービスの提供に集中するために、特許権を…

第三者と争うことなく、製品サービスの提供に集中するために、特許権を上手く使うことはできますか?わたしたちは、積極的にコンペチタと争いたいと思っているわけではなく、権利侵害であると警告されたり、ライセンス料の支払いを求められたりすることなく、本業に集中したいと思っています。




弁理士からの回答

自社が「第三者にとって、反撃されると脅威となるような特許権の資産」を保有すれば、コンペチタを牽制することができます。十分な特許権を保有していれば、相手は反撃をおそるからです。

そして、その「十分な特許権」の件数は、理論的には、

自社の事業規模/特許権の件数(分子/分母)と、コンペチタのそれらとの対比

の両者が等しくなる程度の特許権の件数が「十分な特許権」であると言えます(※理解を簡単にするため、個々の特許権の強さ=相手の事業にどの程度効くのかは、すべて同じであると仮定しています)。

具体例をもって説明すると、次のようになります。

特許権を侵害すると、権利侵害した製品が多いほど、すなわち事業の規模が大きいほど支払う額は大きくなります。そうすると、互いに相手の事業に効力を発揮できる特許権の数が同じであるケースにおいて、コンペチタの事業規模が自社の事業規模の2倍あった場合、コンペチタの支払い額は自社の2倍になります。すなわち、争いを起こさないように牽制し合うためには、自社はコンペチタの半分以上の特許権の件数で足りることになります。



回答の詳細な説明

権利侵害であると警告されないように、または、ライセンス料の支払いを求められたりしないようにするには、 

「コンペチタなどの第三者にとって、反撃されると脅威となるような特許権の資産」

を保有することで、相手を「牽制」するのがよいです。こちら側が十分な特許権の資産を持っていれば、相手は反撃をおそれてアクションを起こさないからです。

そして、その「十分な特許権」の件数は、理論的には、

自社の事業規模/特許権の件数(分子/分母)と、コンペチタのそれらとの対比

によって考えることができ、両者が等しくなる程度の特許権の件数が「十分な特許権」であると言えます。なお、正確には特許権の件数だけでなく、個々の特許権の強さ(相手の事業にどの程度効くのか)も影響しますが、問題を簡単にするために、ここでは特許権の強さは全て同じであると仮定します。

「なぜ、保有すべき権利の件数と、事業規模とが関連するのか」というと、特許権は、それを侵害する者に対して差止請求・損害賠償請求できる手段という側面があり、その手段が相手に対してどの程度影響を与えることができるのかというのは、相手の事業規模によって決まるからです。

具体例をもって説明すると、次のようになります。

特許権を侵害すると、例えば、工場出荷価格の数パーセント程度を支払うことがありますが、出荷された数が多いほど(権利侵害した製品が多いほど)、すなわち事業の規模が大きいほど支払う額は大きくなります。

そうすると、例えば、コンペチタの事業規模が自社の事業規模の2倍あった場合、互いに相手の事業に効力を発揮できる特許権の数が同じであるケースにおいては、単純計算すると、コンペチタの支払い額は自社の2倍になります。すなわち、争いを起こさないように牽制し合うためには、自社はコンペチタの半分以上の特許権の件数で足りることになります。

大企業のなかには、コンペチタと自社のそれぞれの、事業規模および特許ポートフォリオを比較した上で、どの程度の特許権が必要なのかを見積もり、その見積もりに沿って出願活動をしている企業もあります(それを検討する専属のスタッフの方がいる)。

なお、自社とコンペチタAとの間の問題だけではなく、別のコンペチタBが登場する場合には、このように簡単には解けないことを付記しておきます。コンペチタAとコンペチタBの事業上の関係も考慮するとなると、天文分野の古典力学における三体問題のようになってしまうからです。

なお、もしも、第三者が自社の特許権を侵害し、「事業によって得られるであろうと期待される利益」を脅かす場合には、特許権の効力としての差止請求によって除去することをオススメします。差止請求は、事業を支えていくための特許権の第一義的な使い方だからです。