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Q.013 大企業ほど資金が潤沢ではない中小企業にとっても、特許出願はしたほう…

大企業ほど資金が潤沢ではない中小企業にとっても、特許出願はしたほうがいいのでしょうか。技術系の中小企業を経営しており、新しいアイデアは幾つかあるのですが、特許にはお金がかかると聞きます。中小企業も、大企業と同じように出願した方がいいのでしょうか。




弁理士からの回答

まず、金銭面については、日本国内で特許権を取得するだけでも70万円、外国出願まで考えると300万円以上かかることもありますので、確かに、安くないお金が動きます。ただし、中小・ベンチャー企業向けに、国内審査・特許料が1/3に軽減されたり、外国出願費用の補助金制度がありますので、これらを活用すれば、金銭的な負担はある程度軽減されると思われます。 

次に、「特許出願はしておいた方がいいのか?」については、ⅰ)事業を守るため、ⅱ)事業を差別化するため、という2つの理由から、

事業の柱と言える技術については特許出願しておいた方がいい

と回答します。

1.「事業を守る」というのは、事業規模が大きくなればなるほど、他社から特許権侵害を警告されたり、紛争に巻き込まれたりする可能性が高くなります。中小・ベンチャー企業が特許について悩んでいないのは、警告・紛争の種が無いのではなく、顕在化していないだけなのです。しかし、自ら特許権を持っていれば相手も反撃を嫌がるので、巻き込まれる可能性を低減できます。

2.「事業を差別化するため」というのは、せっかく創出したアイデアでも、誰かに先に特許権としてとられたり、公知発明として誰でも使える技術になると、事業で差別化を図ることが難しくなります。そのため、事業拡大の「きっかけ」となりうる発明については、特許出願しておくのがいいです。「備えあれば憂いなし」です。

このように、特許出願は、事業を守り、事業拡大のきっかけとなるので、いわば「攻防一体の戦術」であると言えます。



回答の詳細な説明

御懸念されているのは、

  • 特許出願にかかる金銭
  • 中小企業も特許出願したほうがいいのか

ということですから、順に説明します。

まず、出願にかかる「お金」について。

仰るように、特許権を取得するには安くないお金がかかります。例えば、日本国内だけでも特許権を取得するのに、出願~権利設定までで70万円程度かかります。その後、特許権を維持するための年金も少なからずかかってきます。外国出願まで考えると、国の数によっては300万円以上になることも多いです。

ただし、「中小・ベンチャー企業を対象にした特許出願等の費用の軽減措置」(外部リンク:特許庁ウェブサイト)というものがあって、国内の審査請求料、特許料を1/3に減額する措置がありますので、日本国内で特許権取得に係る費用は50万円程度に抑えることはできます。また、外国出願についても補助金交付を申請(外部リンク:特許庁ウェブサイト)することもできます。

これを踏まえて、中小企業も出願した方がいいのか、についてですが、結論は

事業の柱と言える技術については特許出願しておくべき

です。このように言い切る理由は2つの理由からです。

  1. 事業を守るため
  2. 事業を差別化するため

1.事業を守る

まず、大企業は、資金が潤沢だから驚異的な出願件数になっているわけではなく、事業規模が大きいからです。

どういうことかと言うと…事業規模が大きいと、権利を侵害したときの賠償金も大きくなり得るので、コンペチタ等から損害賠償請求の的にされやすくなります。しかし、返り討ちできる程の特許パワーがあれば、相手も反撃を恐れて標的にしにくくなります。

だから、大企業は、大規模な事業を守るために、多くの特許権を確保していると考えられます(トロールの問題は、訴訟の話へと脱線するので、横に置いておきます)。

これに対して、中小企業、特に起業したてのベンチャー企業は、事業についての特許リスクが顕在化していないだけであって、今後成長していくにつれて、他社から特許権侵害を警告される可能性も否定できません。これは、中小・ベンチャー企業に限ったわけではなく、大企業のなかのベンチャー「事業」も同様です。

もちろん、事業の本旨である製品開発の費用を圧迫するような特許出願の仕方は、辞めた方がいいです。事業を守るためだからと、無駄に特許のために資金を使い込んで製品開発がうまくいかないのでは本末転倒だからです。

ですから、事業が成長していくことを考えれば、企業の規模にかかわらず、事業を守るという観点から少なくとも「事業の柱」といえる技術については出願しておいた方がいいです。

2.事業を差別化する

事業規模が国家予算レベルにまで達した米国IT企業が、事業拡大の結果、特許権を買いまくっているニュースがよく流れます。これを聞いて、「事業規模が大きくなってから特許権を用意すればいいのでは?」という考え方があります。

一つのやり方として正しいとは思いますが、米国IT企業も、特許権をすべて買ってきているのではなく、自ら出願して獲得してもいます。自ら創出した発明でないと、事業拡大の「きっかけ」にすることもできないし、事業を差別化することもできないからです。

もし、他社と差別化できそうな発明を創出したのに出願しない選択をすると、他社に先を越されて出願されたり、公の技術になって誰でも使えるようになってしまったりすることもあります。そうすると、事業の差別化を図ることが難しくなります。

ですから、事業拡大のきっかけとし、事業の差別化を図るという観点からも、「事業の柱」と言える技術については特許出願した方がいいです。

以上のことから、事業の柱と言える技術については特許出願をしておくことをお勧めしたいです。古人曰く、「備えあれば憂いなし」。

このように、特許出願というのは、事業規模が将来的に大きくなった際に侵害訴訟に巻き込まれないようにするための守りの策でもあり、事業拡大のきっかけとする攻めの策であり、いわば、

特許出願とは、攻防一体の戦術

と言えます。最後に、上場しているベンチャーが特許権を取得したことで株価があがるニュースがよく流れることを補足しておきます。