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Q.012 他社の特許権の内容をみていたら、改善点を思い付いたので、改善した発…

他社の特許権の内容をみていたら、改善点を思い付いたので、改善した発明について特許出願をしようと思います。具体的には、他社の特許権の内容に、新しく機能を追加した発明を思い付きました。それが権利になったら、他社のものより優れていると言えますか?




弁理士からの回答

改良発明の方が優れているかというと、Yesの場合も、Noの場合もあります。改良発明には、

  1. ベースの発明のうち、ある要素を全く別の要素に置き換える改良発明
  2. ベースの発明に、他の要素(機能)を追加する改良発明です。

の2種類があるからです。 

ベース発明の要素を全く別の要素に置き換える改良発明(1)は、技術的効果が優れているのであれば、特許的にも優れていると言えます。

一方、要素(機能)を単に追加しただけの改良発明(2)の場合には、特許としての価値は低減します。ベースの発明の要素を全て含むため、利用発明を実施すれば必然的に、ベースの特許権を侵害することになってしまうからです。これを「利用発明」と言います。

したがって、他社の特許権の内容について、技術的に改善の余地があるときには、利用発明にならないよう、他社の権利に係る請求項の構成要素を少なくとも1つは外すべきです。

そして、「特許としての優劣と、製品としての優劣とは、必ずしも一致しない」ということを気に留めておいてください。



回答の詳細な説明

リスク調査などで他社の特許権をみつけ、その内容を改善する発明を創出することは素晴らしいです。それこそ、特許制度活用の醍醐味です。

ただし、改良発明の方が優れているかというと、Yesの場合もNoの場合もあります。改良発明には2種類あるからです。

  1. ベースの発明のうち、ある要素を全く別の要素に置き換える改良発明
  2. ベースの発明に、他の要素(機能)を追加する改良発明です。

今回の相談ケースでは、2つ目の方に該当します。この2種類の改良発明について、具体例を用いて説明すると、下記のようになります。

1.全く別の要素に置き換える改良発明

例えば、ベースの発明Aが「(イ)+(ロ)+(ハ)」であるとします。このとき、(ハ)よりも、全く別の要素(二)に置き換えた方が技術的な効果が高まるということで、(ハ)を(二)に置き換えた改良発明「(イ)+(ロ)+(二)」を創出したとします。この改良発明は技術的にも優れているし、技術的効果が高い以上は、発明が実施される機会も多いだろうから、特許権としても優れていると言えるかもしれません。

2.要素(機能)を追加する発明

一方で、ベースの発明A「(イ)+(ロ)+(ハ)」だけでは、ユーザにリッチな機能を提供できないということで、要素(機能)を追加した改良発明「(イ)+(ロ)+(ハ)+(ホ)」もあります。こちらの方が、技術的には、機能選択の余地が広がるから優れていると言えますが、特許権の価値としては、ずっと低いものになってしまいます。

以下、「要素(機能)を追加した改良発明(2)は、なぜ、特許権の価値としては低いのか?」について説明します。

まず、技術や製品としては、発明の要素を追加した発明の方が優れています。エンドユーザにリッチな機能を提供できるからです。一方、特許的には、機能(例えば〇〇部など請求項の構成要素)が追加されればされるほど、権利範囲は狭くなります。

しかし、一番の問題は、今般のようにベースの発明に機能を追加しただけの場合、改良発明について特許権を取得しても、その特許権を実施すると、ベースの特許権の侵害になってしまうことです。これは、特許された発明の請求項の読み方と、どうしたら特許権侵害になるのかを考えれば、分かります。

例えば、「イ、ロ、ハを備える〇〇装置」という他社の特許権Aが存在するということは、

イ、ロ、ハを含む製品を第三者が事業として製造等したら、特許権を侵害します

ということを意味します。そして、要素を追加しただけの改良発明は、(イ)も(ロ)も(ハ)も含んでいるので、改良発明が特許権になったとしても、それを内容とする製品を事業で製造販売等すれば、特許権Aを侵害するのは当然です。

このような改良発明を、実務で「利用発明」と言います(※要素のすべてを、そのまま含む改良発明は、利用発明の一類型であって、もう1つの類型もあります)。このように、利用発明は、それを実施すると他社の権利を必然的に侵害することになるため、自らが創出した発明であるにもかかわらず、自由に実施できません。

したがいまして、他社の特許権の内容について、技術的に改善する余地があると思いついたときには、利用発明にならないように工夫する必要があります。

具体的な工夫の方法は、1つ目の改良発明のように、

他社の権利に係る請求項の構成要素を少なくとも1つは外す

ということです。但し、(イ)、(ロ)、(ハ’)のように、(ハ)の派生とした場合には、例外的に、権利侵害が成立してしまうことがあります。

詳しく言うと、(ハ)が本質的な部分ではなく、(ハ)を(ハ’)に置き換えても特許権Aの発明の目的が達成されて同じ効果を発揮する等の条件を備えると、均等侵害であると言われてしまいます。

ですから、追加する要素は、外した要素とは全く別のものとすることに留意してください。発明は、とにかくシンプルに、シンプルにするのがよいです。そして、

特許としての優劣と、製品としての優劣とは、必ずしも一致しない

ということを気に留めておいてください。最後に、スティーブ・ジョブズ氏の言葉を紹介しておきます。

Simple can be harder than complex. You have to work hard to get your thinking clean to make it simple. But it’s worth it in the end because once you get there, you can move mountains.