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Q.010 特許に関する情報を、事業方針を決定するのに使うことはできますか?B…

特許に関する情報を、事業方針を決定するのに使うことはできますか?B2B事業の御客様に対して、どのような新規機能を提案すれば受注に繋がるのかという議論をしています。マーケティング情報などを使って検討しているのですが、このときに、特許情報も使うことができますか?




弁理士からの回答

はい、特許情報を、事業方針の決定のために使うことができます。特に、B2B事業の方針決定に役立てたいのであれば、公開公報に記載されている情報を分析することで、有益なものになります。

具体的な分析手法は次のとおりです。

  1. 特許情報プラットフォーム等の公報検索システムを使って、目的に沿った公報群を抽出する。このとき、検索式を使うと効率化できる。
  2. 抽出した公開公報のすべてについて、各案件の「技術的課題」と「解決手段」をカテゴライズして洗い出す。
  3. 洗い出した「技術的課題vs解決手段」を、例えば、縦軸を技術的課題、横軸を解決手段としたマトリックス状の表にマッピングしていく。

これにより、その顧客がどの技術的課題を解決するのに注力しているのか、どの解決手段を得意とするのかを可視化できます。注力している技術的課題に対して最適解を用意すれば、B2B事業の顧客候補に話を聞いてもらえる可能性も高くなります。



回答の詳細な説明

はい、特許に関する情報を、事業方針を決定する材料の1つとして使うことができます。特許に関する情報は、例えば、特許公報・公開公報の情報などが簡単に入手できるので、それらがよく使われます。B2B事業の方針決定にも有益な情報になると思います。

但し、有益な情報が、特許公報にそのまま載っているわけではありません。

特許公報に載っているのは、出願された発明に関する技術情報に過ぎません。また、任意に抽出した特許公報の情報が役立つわけでもありません。 

目的意識をもって特定の条件を満たす複数の特許公報を抽出し、それらの情報を分析することで、はじめて、事業方針の決定に役立つ情報を抽出できます。

B2B事業の方針決定に役立つ情報は、次の手順で進めていけば抽出できます。

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[ステップ1]

B2B事業の相手方(御客様)のすべての特許出願の中から、その事業に関する出願の公開公報を抽出します。公開公報は、特許庁が提供する特許情報プラットフォーム(外部サイト)で無料閲覧できます。このシステムでは、「検索式」というものを使うと、効率的に必要な公報を抽出できます。

検索式とは、例えば、

  • 出願した者は誰か
  • 特定の技術用語を含むか
  • 出願期間はいつか

などの条件を定める式です。目的に沿った検索式を作成することで、全公報の中から目的に沿ったものだけを抽出できます。

なお、特許法の知識がなくても検索式を作成できますが、知財専門家の知見を取り入れた方が、検索の精度も、作業効率も良いのは間違いありません。

[ステップ2]

抽出した公開公報のそれぞれについて、

  • 顧客が出願時に抱えていた技術的課題
  • それを解決する手段

をカテゴライズして洗い出します。公開公報には必ず、技術的課題と、それに対応する解決手段が記載されています。

[ステップ3]

洗い出した「技術的課題vs.解決手段」を、カテゴライズします。そして、例えば、縦軸を技術的課題(カテゴライズした項目を含む)、横軸を解決手段(カテゴライズした項目を含む)とするマトリックス状の表を用意し、それぞれの公報が該当するマス目にマッピングしていきます(件数をカウントしていく)。

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このようにすることで、その顧客がどの技術的課題を解決するのに注力しているのか、どの解決手段を得意とするのかを可視化できます。注力している技術的課題に対して最適解を用意すれば、B2B事業の顧客候補に話を聞いてもらえる可能性も高くなります。

可視化すると、このようになります。

なお、特許情報では、直近の情報を見ることは出来ません。出願から1年6月経過により出願公開されるまでは、原則、秘密状態にあるからです。但し、B2Bの顧客も、数年前から検討を開始していることが一般的だと思いますから、情報としての価値はあると思います。直近の情報は、マーケティング情報などによって補完するのが適当かと存じます。

おまけ:マトリックス化、2つの応用

  • 顧客の情報だけでなく、顧客のコンペチタの特許情報を併せて分析します。これによって、顧客が、顧客のコンペチタに比べて、どの機能において優越しているのか、または劣っているのかが分かります。また、どこがブルーオーシャンで、どこがレッドオーシャンなのかも可視化されますので、自らが特許出願するときにも、どの領域がブルーオーシャンなのかが分かります(映画「マトリックス」では赤いカード…でしたが、特許戦略では青です)。
  • 出願年度という軸を追加すれば、時間経過とともに、どの技術的課題が重要になってきたのかの推移を3次元的に見えてくると思います。