抽象的なアイデアしか浮かばず、困っています。組織で発明創出のブレストをしていますが、出てくるアイデアが、どれも抽象的なので、従来技術との差が生まれず困っています。何か、打開策はありますか?
弁理士からの回答
具体的なアイデアを創出するには、「発明が実施されるシーンを具体的かつリアルに想像する」ことから始めるのが有効です。課題設定が抽象的では、解決手段・効果も同様に、抽象的なものしか生まれないからです。
具体的なシーンを想像すれば、シーンが移り変わるなかで、特定のシーンで課題が生じる状況を思い浮かべることもでき、具体的な課題が浮き彫りになります。具体的な課題が浮き彫りになれば、それを解決する技術手段を創出すれば、それが発明になります。
発明が不完全でも、具体的なシーンにおける具体的な課題を解決する発明ですので、組織でのブレストも活発になると思います。
回答の詳細な説明
おっしゃるように、抽象的なアイデアでは、みんなでブレストしていても、具体的な改善案を提言することも難しいと思います。そのようなときには、アイデア・発明が解決しようとする課題を、もう少し具体的に設定すればよいと思います。そのためには、
ことが有効です。
特許の世界だけでなく、他の世界でもそうかもしれませんが、
- 課題
- 解決手段
- 効果
は、抽象度のレベルが相互に対応します。
つまり、課題設定が抽象的であると、解決手段も効果も同様に、抽象的なものしか生まれません。一方、課題設定を具体的にすれば、具体的な解決手段を思い付くこともあるだろうし、その効果も具体的なものになります。
発明が実施されるシーンを具体的かつリアルに想像すれば、シーンが移り変わるなかで、特定のシーンのなかで課題が生じる状況を思い浮かべることもでき、具体的な課題が浮き彫りになります。具体的な課題が浮き彫りになれば、それを解決する技術手段を創出すれば、それが発明になります。
創出した発明が不完全でも、具体的なシーンにおける具体的な課題を解決する発明ですので、組織でのブレストも活発になる傾向になります(企業弁理士で開発者とブレストをした経験上、そのように強く思います)。
なお、課題と解決手段を具体的に設定すると、発明の範囲が狭くなってしまうのではないか、という懸念があるかもしれませんが、それは杞憂にすぎません。アイデア創出のブレスト段階では、具体的なシーンを想定して、具体的な課題を具体的な手段で解決することを検討したとしても、その具体的な手段の本質を見極めれば、発明の範囲は自ずと広がるし、適用できる技術分野を拡大することもできます。
「一度発散させて収束させる」というアイデア抽出方法もあるかもしれませんが、抽象的なアイデアしか出なくても困っているときには、一度、思いきり「収束しきってから、発散させる」という方法も有効だと思います。
例えば、テレビを見ているユーザの視線の動きを検知する視線検知技術を、車両の技術分野にも適用しようとする場合を考えてみます。アルゴリズムとしては似たり寄ったりなので、安直に適用することだけを考えると、製品分野が異なるだけですので、進歩性はぜったいに生まれません。
しかし、具体的なシーンを頭の中で思い浮かべると、違いが見えてきます。
ソファーに座ってテレビを見ているユーザの視線の移動軌跡と、車を運転しているユーザの視線の移動軌跡とをリアルに想像して比較すると、テレビは2次元平面での移動になりますが、車の運転では3次元空間での視線移動になります。そうすると、奥行きの視線移動の検知という新しくて具体的な課題が生じてきます。